専攻長挨拶

senkocho2015ビジネス科学研究科 法曹専攻長    大石 和彦

学びの森から皆さんへ

 このたびはようこそ当法科大学院ウェブサイトにお越しくださいました。

 当法科大学院の正式名称は、「筑波大学大学院ビジネス科学研究科法曹専攻」といいます。筑波大学が、その前身である東京教育大学のあった文京区大塚三丁目のこの地に、キャリアアップを目指す有職社会人を対象とした夜間大学院を全国に先駆けて設置したのが1989年。当法科大学院(法曹専攻)は、その夜間社会人大学院(ビジネス科学研究科)の中にある5つの専攻の一つとして、2005年に開設されました。

 私事で恐縮ですが、私が当法科大学院に赴任したのは2009年9月1日でした。私はそれまでも、全国的に法科大学院制度がスタートした2004年4月以来、複数の法科大学院の教壇に立ってきました。そもそも司法試験受験というカルチャー自体に全く縁のなかった私のことですから、最初は何をどう教えたら良いやら皆目わからない、まさに霧の中での徒手空拳、悪戦苦闘の日々でしたが、それでも当法科大学院赴任までには、どうやら芸のパターンらしきものを一応は獲得していたつもりでおりました。そんな私にとっても当法科大学院の教壇は、他の法科大学院には決してない、良い意味での緊張感を与えてくれる場であり続けています。それはきっと、親ではなく自分自身が一生懸命稼いだお金を出して、職場や家族の応援を受けながら、まさに人生をかけて学んでいる学生の皆さんの真剣さが、教員の側にもひしひしと伝わってくるからに違いありません。

 昼間はもちろん、人によっては授業後も自宅ではなく職場に帰っての仕事まで抱えている有職社会人が、いずれ劣らぬ勉強家揃いの全国の司法試験受験生との競争に勝ち抜くことは、並大抵のことではないでしょう。しかしながら、社会的経験を積んできた当法科大学院の皆さんには、普通の昼間開講の法科大学院に通う学士課程を出たての若者が持ち合わせていない強みも、確かにあるように感じています。法学研究者もそうですが、法曹も、文を読んで書く仕事だと思います。特に弁護士にとっては、他人とのコミュニケーション能力も重要でしょう。文を読み、文書を書き、口頭でプレゼンを行うという基礎的能力において、当法科大学院の学生のレベルはきわめて高いと思います。また法律論(少なくとも私が専攻している憲法解釈)では、「規範」を覚えることもある程度は必要ですが、そこから先の「あてはめ」段階での議論の厚みは、実は法的知識というよりも、その人が社会経験をどれだけ持っているかがモノを言うという面があるように思います。つまり、法的な知識のダウンロード(受験界でいう「インプット」)がある程度の「臨界点」にまで達しさえすれば、社会人の皆さんが持っている起爆力はとても大きいはずです。

 駅前の大通りから入ってすぐの立地であるにもかかわらず、このキャンパスは、いつもどこかしっとりとしていて静かです。1903年に東京高等師範学校(東京教育大の前身)がこの地に移転して以来この地に染みついた学びの森としての記憶が、今もなお生き続けているからではないかと思います。皆さんが、伝統あるこのキャンパスの歴史に新たなページを加えてくださることを期待します。