専攻長挨拶

 

法曹専攻長(法科大学院長) 直井義典

 

 

 筑波大学では、1989年に、国立大学で唯一の有職社会人のための夜間大学院を設置しました。筑波大学法科大学院は、2005年に、その夜間大学院コースの1つとして開設され、それ以来、社会人としての知識・経験・技能と専門的な法的知識・技能とをともに備えた法律家を輩出しています。

 当法科大学院の最大の特徴は、社会人としての仕事を続けながら、職場や家族の応援を受けて法曹という新しいキャリアを目指す点にあります。有職社会人の皆さんは、昼間は立派な仕事を持ち働きながら、夜間や土曜日には法科大学院の授業を受け、ときには授業後に再び仕事をすることになります。そのため、昼間部の学生と同じ土俵の上で競争をするのは、並大抵のことではありません。しかしながら、様々なバックグラウンドを持ち職務上の経験を積んできた社会人の方々には、学士課程を卒業してすぐに昼間部の法科大学院に通い始めた方々とは違った強みがあります。社会人として働く中で感じた法に対する疑問・物足りなさに起因する、法を学ぶことに対する極めて強い意欲や、外国語も含めた長文を読み、企画を立案・検討し、相手方と交渉し、文書を書き、口頭でプレゼンテーションをするといった普段の業務を通じて培われた高い能力が、それに当たります。これに加え、法学の学修においては、膨大な法規範の修得が求められると同時にその法規範を具体的事案にあてはめる能力が求められますが、この当てはめにおいて、社会人としての経験に裏打ちされた厚みがものを言うことになります。昼間部の学生に比べて学修にあてる時間が圧倒的に少なくならざるを得ませんが、教員も効率的な学修が可能となるように教育方法を工夫しており、授業でのICTの活用も進めています。

 さて、当法科大学院の所在するここ文京区大塚の地は、筑波大学の前身である東京教育大学、さらにさかのぼればその前身の東京高等師範学校の跡地です。茗荷谷駅から歩いてすぐという立地にもかかわらず、この東京キャンパスは緑に囲まれ、学修に適した環境にあります。1903年に東京高等師範学校がこの地に移転して以来、このキャンパスには学びの森・教育の森としての記憶が、今なお継承されているのです。

 当法科大学院の理念に共鳴して下さる皆さんが、社会人の生涯教育として伝統ある筑波大学東京キャンパスの歴史に、新たなページを加えてくださることを期待しています。