T.Sさん

・1992年 東京大学工学部機械情報工学科卒
・ITベンダーでSE/PM(約15年)→特許事務所で弁理士(約10年)
・2010年入学(6期)、同年9月から1年間休学、2014年修了

1.はじめに
 私は、理系出身で、社会人になってからもエンジニアとして仕事をしており、法律とは全く縁のない生活をしておりました。忙しく仕事をしている中で、あるとき突然法律への興味が湧いたのですが(理由は覚えておりません)、法曹というと当時は旧司法試験のみの時代で、理系出身の社会人が仕事をしながら挑戦できるような生易しいものではなかったため、諦めるどころか挑戦しようという気さえ起きず、法律への興味もいつしか頭の隅に追いやられてしまいました。
 その後、司法試験制度が改革されてロースクールが誕生し、理系出身の社会人でも司法試験に挑戦できそうな場が提供されたこと、特に、筑波大学法科大学院という、社会人向けの夜間のロースクールが都心の交通の便の良いロケーション(当時は茗荷谷キャンパスへの移転前で秋葉原の駅前にありました)に設立されていたこと、転職後の仕事も落ち着いて、仕事をある程度自分でコントロールできるようになったこと、等の諸条件がかみ合ったことから、一念発起して筑波大学法科大学院に入学して司法試験に挑戦することとなりました。

2.ロースクールでの学習
 当時は未修者のみの3年コースしかなかったのですが、クラスには、私のような純粋未修者の他に、実際は既習者という方も相当数おりました。1年の最初の頃の授業では、そのような方々との知識の差に少し圧倒され、自身の知識のなさが露見するのが恥ずかしく、授業の際に先生から当てられるのが怖かったことを思い出します。ただ、授業に食らいついていくうちに、実力がついてきたのか、徐々にそのようなことはなくなっていきました。
 社会人であるため、フルタイムの他のロースクールの方々に比べてただでさえ勉強時間が圧倒的に少なくなる上に、個人的には入学後ほどなくして子どもが産まれたために育児に時間を割いたこともあり、とにかく、仕事・家庭での役割をきちんと果たしつつ、いかに勉強時間を捻出するかが最大の課題であり、常にこの点を意識していました。例えば、学習のために参照する資料のデータ化や、音声データの活用等により、外出先や徒歩での移動中等の勉強には通常あまり適さない場面でも、その場面に合った勉強ができるような環境を作るようにしていました。
 また、的を絞った効果的な学習を行うことを意図して、チューターゼミも大いに活用しました。少人数のゼミ形式で、現行の司法試験の合格経験のあるチューターの方に対していろいろと質問し、経験に基づいた実践的かつ小回りのきいた回答やアドバイスを得ることができる環境は、普段の授業だけでは十分にカバーしきれない部分(特に未修者にとってのアウトプット関連)を補完するための非常に貴重な場でした。

3.司法試験合格まで
 仕事を続けながら何とかロースクールは修了したものの、純粋未修者の社会人にとって司法試験はそれほど甘いものではなく、3回目の受験でようやく合格することができました。ただ、1回目の受験時から、結果はともかくとして、体感としては全く太刀打ちできない試験ではなく、ロースクールでの3年間で自分が習得した知識や能力をベースとして、習得し切れなかった部分を把握し、その部分を埋めることを意識していけば必ず合格できるということも認識できました。この点は、ロースクール修了後、一般的には年数を経るにしたがって勉強時間も司法試験の合格率も下がっていくと言われる中で、勉強を継続することに対するモチベーションを維持するための重要な要素となりました。

4.おわりに
 このように、筑波大学法科大学院の存在がなければ、私のような理系出身の純粋未修者が仕事を継続しながら司法試験に挑戦しようなどと思い至ることはあり得なかったところ、単に挑戦するための場を提供していただいたにとどまらず、司法試験で実際に戦うためのベースとなる実力もしっかりと身につけさせてくれたことにとても感謝しております。後は、学習の方向性を誤らずに努力すれば、フルタイムで勉強する他のロースクール出身の受験生を相手にしても、合格は十分可能です。皆様のご健闘を祈念しております。
以上