天野 辰之さん

天野さん1 はじめに
私は、本学3期生として平成22年3月に本専攻を修了、同年の新司法試験(現司法試験)に合格し、現在は、ロンドンの法律事務所でアソシエイト弁護士としてプロジェクトファイナンス分野を中心に契約書作成などの仕事をしています。私はまだまだ半人前ですが、素晴らしい同僚とともに、最高水準のリーガルサービスを求める世界各国からのクライアントのために、この国際金融の中心地の一つで働けるというのは、刺激的で、ハードで、そして充実感のあることです。
私は、もともと米国NY州の弁護士資格をもっていたこともあり、合格後も司法修習には行かず、勤務先(株式会社国際協力銀行)からの出向という形で、外国の法律事務所に勤務することとなりましたが、司法試験に合格したことで、このようなチャンスに恵まれたことは間違いないと思います。
私は、日本法についてのアドバイスは行えませんが、日本人が殆どいない現在の職場では、日本法について学んだ経験は重宝されています。ロンドンのシティでは、リーマンショック後、日本の金融機関・企業のプレゼンスが相対的に大きくなっていて、日本人であることが活かせる環境にあることも幸いしています。
国内の法曹事情については、市場の縮小、過当競争がしばしばいわれますが、ひとたび目を海外に向ければ、第一線で活躍している日本人弁護士は僅少で、需要に対応できていません。既に海外分野でのビジネスの経験を積まれ、一層のキャリアアップを目指す方々にとっては、法曹分野には大きなニーズとチャンスが存在していると実感します。

2 学習計画
しかし、合格に至るまで、社会人としての仕事と、妻子のある家庭生活、学生生活の両立は容易なことではありません。
また、3年間という時間と、決して安くない費用をかける以上は、司法試験に合格する充分な勝算のあることが、家族をはじめ周囲の理解を得るために、不可欠です。私の場合には、法学部出身ということもあり、修了後一回での合格を第一目標にして、3年間の大まかな学習計画を自分なりに立てました。
この学習計画の下、講義の予習・復習と合わせ、該当分野の短答式問題を解いていくという勉強を続けていました。これは、何より講義内容の定着に役立ちましたし、講義内容が結果としてどのように出題されることになるのか意識しつつ勉強することは重要に思われました。また、私の入学時は、短答式の試験の配点が現在のほぼ倍で、短答式で極限まで点を稼いで逃げ切る、という作戦が、通勤時間などスキマ時間を活用せざるを得ない社会人には有効に思われたのです。ところが2年次のときに、制度が変更され、作戦の再検討を余儀なくされました。しかし、私のころは試験時間4時間の科目もあり、社会人には過去問を解くためのまとまった時間を確保することさえすら、そもそも難しかったのです。

3 合格者のことば
そのような不安要因を抱える中で、多くの法科大学院生がそうであるように、私も、合格者の生の意見を重視しました。一期生、二期生の合格者と直接話をして強く受けたメッセージは、「大学院を徹底的に活用しろ」ということでした。専業受験生にはダブルスクールなどの途もあるでしょうが、時間のない社会人には大学院をとことんまで活用し尽くすのが、結局は最も効率が良いのです。
まず、私の立場からは講義数がやや不足していると思われた選択科目(倒産法)については、先生にお願いしてチューターゼミをおこなっていただきました。先生・職員の方々には、本当に親身に相談にのっていただきました。
不安のあった論文対策としては、同期生との勉強会を活用し、市販の演習書を中心に徹底的に議論し、意見が分かれた箇所は、オフィスアワーなどを利用したり、時には勉強会にご足労いただいて、先生に質問しました。講義後、遅くまで質問することもしばしばでしたが、先生方はピントの外れた質問でも、粘り強く応えて下さいました。
本学は「大人」のための大学院ですから、自ら考えない、行動しない学生に手取り足取り指導してくれるということはないでしょう。しかし、真摯かつ理に適った学生の要望には、先生方も、職員の方々も実に柔軟に対応していただけます。そして、合格者には、1.自分の生活サイクルに合った学習計画や勉強法を模索・確立し、2.その中で克服すべき課題を自ら発見し、3.必要なサポートを積極的に周囲に働きかけ大学院に求めていく、という姿勢を持つ方が、多いように思います。

4  おわりに
楽しいことも、苦しいこともあった3年間の学生生活でしたが、これを乗り切れたのも、先生方をはじめ、本学職員の皆様からの温かいご指導があったこと、優秀な同期生たちに恵まれたこと、そして家族と、職場の皆様からの惜しみのない支援があったからに他なりません。感謝の気持ちを忘れ、慢心してはならないといつも肝に命じています。
合格者数3千人という目標が公式にも失われた現在、法曹は色褪せて見えるかも知れません。しかし、経験を積んだ優れた社会人を法曹に輩出するという、本学の社会的使命はむしろ重要性を増しているように思います。沢山の社会人の皆さんが、勇気をもって法曹にチャレンジし、本学がその社会的使命を果たしていくことを応援していきたいと思います。
天野さん

ロンドンのオフィスにて。クライアントと会わない日は、リラックスした格好で勤務しています。