活躍する修了生 Vol.1

(株)日本貿易保険執行役員 石川和洋さんインタビュー

(株)日本貿易保険執行役員
石川和洋さん
2008年3月修了
  • ご経歴
  • 1992年4月経済産業省入省。気候変動問題など主に国際的な交渉に携わる部署に勤務
  • 2001年12月独立行政法人日本貿易保険に出向
  • 2005年4月筑波大学法科大学院入学
  • 2008年3月同大学院修了
  • 2012年7月(独)日本貿易保険営業第一部長
  • 2012年9月司法試験合格
  • 2016年1月(独)日本貿易保険総務部長
  • 2017年4月独立行政法人から株式会社に移行
  • 2018年4月(株)日本貿易保険執行役員に就任(現在)

森田憲右専攻長

本日は、筑波大学法科大学院第1期生の石川さんにお越しいただいています。まずは、石川さんの方から、現在のお仕事についてお話ししていただけますでしょうか。

石川和洋氏

私は、現在、株式会社日本貿易保険というところで、執行役員総務部長を務めております。当社は、元々は経済産業省の一部局であったものが、2001年に独立行政法人日本貿易保険として独立し、これが、2017年に、現在の政府全額出資の株式会社となったものです。私は、2001年12月に、経済産業省から当初は出向というかたちでこちらに参加し、現在に至ります。

森田

石川さんは、法科大学院が制度としてはじまった年に、1期生として当専攻に入学されました。そのようなお仕事をされている中で、法科大学院に入学しようと考えるに至った動機について、教えて下さい。

石川

ishikawa01当社の業務内容は、貿易保険という公的な制度を用いて我が国の商社や銀行等の国際的な事業展開を支援することです。ここでは、政府組織内での仕事とは違い、実際のビジネス、特に企業間での契約に直接関わることが必要となってきますから、民商事の法律知識が当然に求められます。私は、もともと法学部出身でなかったことから、そのような基礎的な知識が足りないと感じていました。そこで、経済産業省から現在の職場に移ったことで時間的な余裕も出来たことから、会社の近くにあった大学の法学部の夜間部に社会人入学することにしました。そこでは、多様なバックグラウンドをもった優秀な社会人と出会うことができ、方々から刺激を受け、愉しく学ぶことが出来ました。そうこうしているうちに卒業が近づいてこれからどうしようかなと考えていたというときに、たまたま筑波大学が社会人を対象とした夜間の法科大学院を開校することを知り、会社からも近かったので、当時難関であることは予想されていましたが募集に応じてみることとしました。

森田

そうすると、当時は、法曹になろうという気持ちはなかったのですか。

石川

いや、当時は、法科大学院を普通に修了すれば、みな司法試験に合格することができ、法曹資格はほとんど自動的に付いてくると信じていました。ですので、私も、法曹資格を取得して弁護士になるのかな、と考えていました。

森田

法科大学院に入学されてみて、どのような感想を持ちましたか。想像していたのと実際とでは、違いはありましたか。

石川

当時は、制度が始まったばかりですので、筑波大学の法科大学院でも、大学側も学生側も本当に手探りの状態だったと思います。毎日の授業の先に、司法試験の合格というのが本当にあるのか、誰にも分からないような状況でした。学生の知識水準もまちまちで、講義をする先生側としてもどのレベルを対象としたらよいのか相当困っていたのではないかと思います。ですので、これで本当に3年後に司法試験に受かるのかな、という漠然とした不安はみんな感じていたと思います。

森田

ただ、1期生は入試倍率も高かったと聞いていますし、みなさん相当優秀だったのではないでしょうか。

石川

私自身は、ずっと優秀な学生ではなかったですし、よくわかりませんが(笑)、周りの皆さんはみなとても真面目で優秀だったと思います。ただ、現実的に考えると、3年間であの難しい試験を全員受からせるということになりますと、最初からちょっと無理があったのかな、とも思います。実際、全ての人が司法試験に受かっている訳ではありませんし。

森田

授業は、平日は18時20分から21時まで、土曜日は1日中と言うことになりますが、お仕事とか家庭との両立という面では、如何でしたか。

石川

たまたま、その時の理事長自身も司法試験に受かっていた人だったので、非常に理解があり応援もしてくれていたので、恵まれていたと思います。ただ、出席が厳しくて休めないというのは、社会人にとってはやはり大変なことで、私の場合は当時の仕事柄、海外出張も多かったので、空港から直接教室にきて授業を受けてから家に帰るということもありました。さすがにその帰り道には、疲れて階段から落ちたこともありました(笑)。

森田

今は、インターネット経由で授業に参加できる、という制度があるのですが、もしもそのような制度があれば、利用されましたか。

石川

いやぁ、インターネット経由で授業に参加しても、きっとコンピュータの向こう側で寝ていると思います(笑)。

森田

司法試験の受験対策のための勉強としては、どういったことに心掛けていましたか。

石川

ishikawa02私のころは、修了後5年間で3回しか受験できませんでした。私は、修了した年と、最後の2年とで受験し、ようやく3回目で合格したという次第です。ですので、とても長い時間を受験勉強に費やすことになってしまったと思います。予備校の利用など、一通りの受験対策はしましたが、結局、過去問の分析が、最も役に立ったのではないかと思います。暗記だけでは受からない試験ということはアタマではわかっていたはずなのですが、それを本当の意味で理解して実践することは難しいことだと思い知らされました。実は暗記が大変なようで最も安易な方法なのですから。少なくとも論述式に関しては、過去問を分析する際に、実際に記述はせずに手元には何もない状態でアタマの中だけであーでもない、こーでもないと論理展開をよく考えるように務め、それを繰り返したことが、合格に繋がったと思います。実は問題文が手元にない方が、よく問題文を理解できるんですよね。

田村陽子教授

合格後、司法修習に行かなかったのは、現在のお仕事にやりがいを感じていらっしゃるからですか。

石川

修習に行かなかったのは、「いま行くと、周囲に迷惑をかけるかな」ということで見送ったということでして、確かに、それは、仕事にやりがいがあるということなのかも知れません。でも、いずれ、どこかの段階で修習に行ってみたいと思っていますが、それは、退職した後になるかも知れません。まずは、今の仕事を満足いくまでやりたいということかと思いますが、世の中には困っている人がたくさんいるので、それらの人を自分の資格で助けることができるのであれば、それは幸せなことかな、と思っています。

田村

では、司法試験を受ける時にも、有休を取るなどして対応したのですか。

石川

試験を受ける時も、有休を取ったのは、直前の一週間くらいだったと思います。

森田

法科大学院の学修をしたことで、現在のお仕事に役立っているのは、どのようなことですか。

石川

受験勉強で培った問題把握能力や論理展開能力などが、現在の仕事でも活きていると思います。どんな仕事でも、自分が考えていることを旨く相手に伝え、納得させられるかは、とても重要な能力であると思います。法律というのは、相手を納得させるためのツールですから、相手を納得させるためのプロセスを学ぶことは、仕事をする上で、非常に大事だし有益だと思います。それと、やはり一番は、「自信」ですね。司法試験に合格したことで、何をするにも自信が付きました。色々と仕事で追い込まれることがあっても、相手がどんなに優秀そうな人であっても、「司法試験に合格した、自分だってできたんだ」という自信が、仕事をする上でも非常に役に立っていると思います。これから法科大学院を目指す人たちにも、「受かると受からないのとでは全然ちがう」、「受かって初めて分かる世界がある」ということは知って欲しいです。

森田

ありがとうございます。ところで、現在のお仕事は、保険を扱う仕事ということで、いわば法律の宝庫ともいえるようなお仕事かと思いますが、総務部長として、こういう方に入社して欲しい、というようなことはありますか。

石川

まず、私どもの会社は、民間では対応できない仕事を行う公的な役割を担うところでして、我々が断ったら、お客さんは他に行くところはない、ということを理解しておいて欲しいです。次に、商社や銀行などの金融や貿易取引のプロが自分たちで取りきれないリスクに保険を付ける仕事なので、それらのプロに負けないくらいの専門的知識が必要で、そのためには、仕事をしながらも、常に学び続けなければならない、ということを理解しておいて欲しいです。最後に、資本金は多いですが、職員が少なく規模が小さい会社なので、柔軟に、何でも積極的に業務に取り組む、ということを心掛けて欲しいです。このようなことを新卒学生向けの会社説明会でも話しています。

森田

そうすると、法科大学院の修了者も受け入れてもらえるでしょうか。

石川

そうですね。学部生だけを採用している訳ではありませんし、院卒の方も、専門性という観点から貴重な人材だと思いますし、学んだことを活かせる職場だと思います。現在、当社の職員で、法科大学院に通っているという人はいませんが、働きながら学ぶことを支援する体制はあるので、入社後に働きながら通うことも可能になっています。もしこちらでも受け入れていただけるのならば、職員にも入学を勧めてみたいと思います。

森田

では、石川さんから、後輩の筑波大学法科大学院生、ないしは入学を目指している方々に、メッセージをお願いいたします。

石川

先ほども申しましたように、私が法科大学院を目指した当時は、法科大学院を修了すれば、ほとんどみな司法試験に合格することができ、法曹資格は自動的に付いてくるものと信じられていました。それが、当初の想定よりも多くの法科大学院がつくられることとなり、その後には先祖返りではないかと思われるような予備試験も始まるなど、我々の頃とは、法科大学院を取り巻く環境がかなり違っていると思います。そういう状況の中で法科大学院を目指した皆さんは、我々のときよりもずっとしっかりとした目的意識を持っておられると思います。ですので、是非、その挑戦を全うして頂きたいと思います。そして、目指した以上は司法試験に合格して欲しいと思います。試験である以上、合格するための方法論は必ずあるはずで、その方法論を自分なりに見つけられれば、毎年一定数の受験者が必ず合格することとなっている試験ですから、必ず合格できる試験だと思います。中途半端で終わらせなければ、やがてそれが、仕事でも活きてきますので、是非頑張っていただきたいと思います。

田村

最後に、筑波大学法科大学院に期待することは、何かございますでしょうか。

石川

ishikawa03やはり、社会人に対する挑戦の場の提供という役割を続けて欲しいと思います。司法試験は時間も体力も必要なので、どうしても若い人の方が有利になると思います。しかし、実際に社会に出て仕事をしていれば、相手の弁護士さんが地に足を付けた議論をしているのかは、直ぐに分かります。法律だけではなく色々な知識や経験がないと、とてもみんなが納得できるような正しい判断はできません。その意味で、法科大学院制度が創設された際の、法曹の多様性を確保するという理念は、今でも正しかったと思います。ですので、社会人を対象にした筑波大学法科大学院の果たす役割は、今後ますます重要なのだと思います。是非、灯火を消さずに、これからも続けていくことをお願いしたいと思います。

田村

石川さんは、法学部に編入した際の勉学意欲が高じて、法科大学院に入学されたとのことでした。ちなみに、筑波大学法科大学院では、社会人の皆さんなどに対して、生涯教育の機会を設けることも考えています。そのような機会があった場合に、参加されるご希望はあるでしょうか。

石川

今、関心があるのは、会計とか税です。労働法は教科書が厚いので当時逃げてしまったツケに現在追われています。あとは、ITのシステムですかね。システムを使っているのに、中身はまったく理解できていませんから(笑)。

森田

本日は、どうも有り難うございました。