本専攻修了生による平成26年度司法試験合格者座談会

平成27年2月21日東京キャンパスで実施

司会:本専攻教授
A:6期、金融機関勤務
B:7期、公務員
C:7期、公務員
※ご本人の希望で匿名としております。

司会 本日は昨年の司法試験合格者3名の方にお集まりいただいております。お忙しい中、どうもありがとうございます。最初に、法曹を目指そうと思われた動機をお1人ずつお聞かせ下さい。
A 私は今、金融機関の法務部に勤めています。日々の業務の中でも法律についての深い知識が必要だと感じたことと、銀行の中でも法曹に強い者としてのキャリアアップをしていきたいと思ったことが、筑波に入って法曹を目指すきっかけでした。
B 私は行政機関に勤めているのですけれども、筑波に入学する時点でだいたい10年くらいそこでキャリアを積んでおり、一般的な業務の進め方についてはだいぶ慣れてきていたところでした。そこで自分が専門的に強い分野を伸ばしたいと思いまして、私は元々法学部の出身なのですが、もう一度法律の知識をしっかりと身に付けて、より高度の専門性をもって業務が出来るようになりたいと思ったことが動機です。
C zadankai私も行政機関で、入学前でいうと10年近く法務担当をしていました。勤務先では、訴訟があれば弁護士に委任をしていますが、法務担当はそれをサポートするという立場です。ただ、訴訟の主張立証や訴訟進行というものが弁護士を中心に進んでいくわけですが、入学前の頃ももちろんそれらを理解しようと調べたりはするわけですけれども十分な理解が出来たのかなという不安がいつもあって、それであればもっとしっかり勉強をする機会を持ちたいと思いました。それから、近年ですと国家賠償とか、業務に対する不服申し立てとか、そういった行政特有の訴えというものが増えてきたなと感じるところがありまして、そうしたものに対応できる人材になりたいというところもありました。この筑波大学法科大学院は、夜間週末だけで修了できますし、相応の合格実績も当時からあったので、ここに入学しようと思いました。
司会 そうするとみなさんは、法律関係の業務をされてこられた方々ということですね。筑波では昨年から既修者コースを開設しましたが、当時は全員3年コースでした。皆さんは1年目の学習ではどういった点を重視されておられましたか。
A 私自身は法学部を卒業しておりましたが、筑波入学時点で卒業してから15年経っていました。当然その間の法律の改正も多く行われていましたし、自分の当時の知識をどこまで覚えているか不安はあったので、基本的には授業の予習復習を中心に、授業で先生が言ったことを理解するという点を中心に勉強をしていました。その結果、1年生の時は比較的良いグレードを頂戴することが出来ました。ただ今考えると、そういったインプット中心というよりはアウトプット中心の勉強をやったほうがより早く合格することが出来たのではないかなと思っています。
B 特に1年目は、2年目3年目に比べて仕事が少し忙しかったということもあり、また司法試験の受験がだいぶ先だなと思ったこともあって、少しのんびりしていたというのが正直なところです。勉強の仕方ですが、私も法律を勉強するのは10年ぶりくらいということでしたので、記憶を喚起するということと、知識をインプットするということが中心でした。それで、重視した点ですが、インプットが主だったこともありまして、予習よりは復習ということと、今後同じ内容が2年目3年目に出てくるのを見越して、1年目で習った内容を後で復習できる形にまとめておくことを重視して勉強していました。
C 私も法学部卒ですが、卒業して10年近く経ってしまっていて、勉強したことは色々忘れてしまっていたので、講義を中心に、手広く知識を吸収していくようにしました。出来るだけその機会を得ようと思って、講義に加えて、1年生の頃からチューターゼミにも積極的に参加して知識を吸収していくようにしました。自分の中ではどちらかというと、講義の効果を出来るだけ引き出そうと思って、予習を中心に勉強をし、予習の中で疑問に思ったことは講義を特に念入りに聴いたり、あるいは教員に質問したりして、知識を定着させるようにしていました。あと復習としては、司法試験を意識するため、講義で扱った範囲の択一の問題を解いて、知識の定着と試験の出題レベルの確認を行っていました。
司会 1年目の学習では知識のインプットというお話があったわけですけれども、今から考えてみてその知識量というのは受験においてどの程度ウェイトを占める知識量だったのか、このあたりはいかがですか。つまり、司法試験受験のための基礎知識に関しては、ほぼ1年目で充足したというような、そんなイメージなんでしょうか。
A 1年生の一年間の授業だけでも、司法試験の合格に必要な知識の相当部分はカバーできていたのではないかと思います。ただ、自分が今学んでいることを3年後の司法試験においてどのように答案に表せば良いかということに意識を置いて勉強するとか、効率的に後から記憶を喚起できるように知識をストックしておく作業をするかしないかによって、1年生の一年間で得た知識がどれだけ力を発揮するかというのが大きく変わってくる気がします。
B そうですね、今Aさんがおっしゃったように、やはり1年目で得る知識量は相当なものがあると思います。ただ、おそらくその時点では、どれが重要でどれが重要でないという重要付けはわからないでしょう。また、その使い方、答案での使い方ですね、とそいうこともよく分からないということが、現実にはあると思います。私もそうでした。ですので、1年生で得た知識については、2年生以降の授業を受ける基礎になるという意義があったのではないかと思います。
C 確かにそうですね、1年生の段階では、広く知識を吸収するというところなのでしょうけれども、その中から試験合格レベルに持っていくための知識としては何が重要で何が重要じゃないのかというところは、はっきりとはわからないまま広く吸収していったというところはあります。その中で2年とか3年の勉強を通じていく中で、“ああここが大事なところだったんだ”というのが二重三重に上書きされていくような、そんなイメージがあります。
司会 それでは2年目の勉強方法についてお伺いします。2年目になると演習科目が多くなったりして、特に予習が大変になるといった声もありますけれども、授業の予習復習を含めて1年目と勉強方法が異なる面がありましたか。
A 演習科目が多くなるとはいっても、自分の中の印象では、2年目もある意味1年生の延長で、インプット・座学の科目の方が多かったという印象があります。また演習の科目が2年目でありましたが、自分自身はCさんと一緒で1年生の時からある程度予習にウェイトを置いていたので、あまり2年生になって何かやり方を変えなくてはいけなかったということは特段感じませんでした。
B 今Aさんがおっしゃったように、2年目に入っても完全にアウトプットだけになるというわけではなく、私はインプット・アウトプット半々というように感じました。他方、後半になると、答案作成ではないのですけれども、授業中の質問に対して口頭で回答するとか、そういった意味でのアウトプットは多くなると思います。勉強の方法については、1年目は教科書のどこに何が書いてあって引用されている判例が何をいっているかということが分かっていれば十分なのですが、2年目になると、教科書や判例の事例と少し違う事例だとどうなるのかとか、そういう質問が授業でされるということが増えてきます。私は1年目は復習を中心に勉強していたのですが、2年目の特に後半では復習から予習にシフトしました。
C 私も1年のころから予習中心だったのですけれども、2年になると予習問題を授業に臨むにあたって色々調べて、この点を聞かれれば自分はこう答えるということを作っておくということは、その頃から少しずつ意識し始めていました。アウトプットを意識し、教師教員から聞かれたら、自分はこうだからこう思うというのをある程度筋道立てて話せるよう、あらかじめ用意しました。
司会 先ほどチューターゼミの話が出たんですけれども、チューターゼミの利用方法とかはいかがでしたか。特に1年目、2年目についてお伺いします。
A 私自身は、1、2年目はほとんどチューターゼミは利用しませんでした。理由は、私自身は曲りなりにも既修者でしたが、チューターゼミの内容がどちらかというと純粋未修者を対象にした内容かなと見受けられたためです。
B 私もチューターゼミをすべて取ったわけではなく、おそらく取った数としては少ないと思うのですが、それでも1、2年生の時にいくつか参加しました。今Aさんのお話にあったように、どちらかというと授業の補習といった意義付けがされていたと思うのですが、そういったこともあって、私は、直近の授業からしばらく時間が経ってしまった科目や、特に苦手と思う科目について利用しました。こういったゼミに出て、記憶を喚起するとともに、苦手意識がある科目では先生と違う人から説明を聞くとまた違った視点から理解できるかもしれないということで利用しまして、期待した成果はあったと思います。
C zadankai私はどちらかというとチューターゼミには参加しようとした方ですけれども、それは知識を吸収する機会を出来るだけ多く得ようという意識からのものでした。確かに参加してみて、ゼミで扱う内容については、担当するチューターによっても演習中心のゼミであったりとか、あるいは、基礎的な知識を確認していく講義形式のゼミであったりとか色々でした。それぞれのゼミに合わせて、これは基礎知識を再度確認していく場だとか、あるいはこれは演習をバリバリやって知識の定着を図る場だとか、その場に合わせてゼミに参加するというかたちでした。
司会 それでは、3年目の勉強方法についてお伺いしますけれども、3年目になると起案などの総合演習科目が多くなるわけですけれども、3年目にはどのような勉強方法をされていましたか。
A 1、2年目では基本的にインプット中心の座学の授業だったのが、3年目になると、アウトプットを本番に近いようなレベルで求められる授業がいきなり増えたというのが自分の印象です。その時に初めて、自分が2年間学んできたことは基礎としての意義があったとしても、それをどのように答案で表現すれば良いのかについての準備、訓練が足りなかったということを痛感しました。本番、アウトプットを意識した知識の整理であるとか、時間内に答案を書ききるためのテクニック等のアウトプットの訓練を始めたのは実際にはそのような経験をした3年目からでした。
B 3年目は総合演習科目等が多く、今日はこの科目の起案で明日はあの科目の起案で、と毎日追われていたというのが正直なところです。ただ、1、2年生時で勉強した内容については、それまでの積み重ねもありましたし、復習のために資料もまとめてありましたので、起案の内容が全く初見の知識に関するものということはなかったと思います。他方、答案を書くとなると、本当に一から理屈の通った文章を短時間のうちに自分で作り上げなければいけないという、これまでと違う難しさがありました。起案前の予習では先程言ったような1年生でのインプット、2年生での簡単なアウトプットの内容を見直すようにして、起案後の復習ではその内容を答案でアウトプットできたかという反省をするという勉強をしていました。
C 私もお二人と同じですけれども、3年生になるとおおむね試験に必要な知識は学習済みの状態になりますので、演習に臨むにあたって、そこで示された範囲をしっかり復習するようにしました。ただ限られた時間のなかで筋道を立てて文章で相手に伝えていくというのを、どうやって身に付けていくかというのを悩みながらやっていた印象があります。今思うと繰り返し手で書いてそれを他人に評価してもらって、少しずつ培っていくしかないのだと思います。あと、3年生になると、授業とは別に同級生中心に自主ゼミを組んで過去問等の検討を中心に、実際に起案もして、それを他人に評価してもらうというのを繰り返し繰り返し行っていったのが良かったなと思います。
司会 3年生の時のチューターゼミというのはいかがでしたか。
A 私の場合は1、2年生の時とうってかわって、3年目の時はチューターゼミを積極的に利用しました。自分に欠けているアウトプットの訓練やアウトプットを意識した記憶の整理、知識の整理のため、夏休みのウィークデーに毎日入っていた起案のチューターゼミを極力利用するようにしました。
B 私の場合は、アウトプットは、先程Cさんからお話のあった、自主ゼミを中心に行っていたということもあって、3年生のチューターゼミはアウトプット中心になりますので、チューターゼミの利用の頻度というのは3年目になって少し減ったと思います。いくつか総まとめ的なゼミには出ましたが、アウトプットのゼミにはあまり出なかったと記憶しています。
C 私も、3年次も引き続き出来ればチューターゼミに参加したいとは思っていたのですが、授業も入っていましたし自主ゼミも比較的入ってきていたというのがありまして、空いている時間でチューターゼミを適宜入れるという補完の意味で利用していました。ただ、この頃のチューターゼミは基本的には事例演習が中心になってきていたので、授業や自主ゼミに加えて、アウトプットの機会の一つとしてチューターゼミを利用していました。
司会 では、次にお仕事と勉強の両立をお伺いしたいんですけれども。皆さんは社会人で仕事を持たれていたと思いますが、一日のサイクルはどのようなもので、勉強時間はどの程度確保することが出来ていましたか。また、限られた時間内で勉強方法をどのような工夫をされてこられたでしょうか。
A 私の場合は、平日の場合は授業が夜9時に終わるので、そこから11時過ぎくらいまで筑波の地下1階の自習室で勉強をしていました。土曜日は夕方まで授業があったので、それから後は同じように11時くらいまで、日曜日も基本的には朝から夜遅くまで勉強するようにしていました。おそらく1週間の勉強時間を合計すると、筑波在学中は35時間、卒業してからはもう少し増えて40~45時間程度と思います。やはり時間はないので、「すきま時間」をどう活用するかを自分の中では意識をしていました。具体的には、会社での昼休みとか、あるいは通勤、通学時間の電車の中の時間とか、極端な話トイレに行っている時間も常に勉強できるマテリアルを自分の手元に置いておくことによって5分10分を無駄にしないようにしていました。
司会 もう一つは限られた時間内でなにか勉強方法の工夫というものはありますか。
A 3年間で司法試験に必要なすべての準備をやりきるというのはおそらく社会人の受験生には不可能で、何かを捨てないといけません。私は2回目で司法試験に受かりましたが、特に1回目が終わって2回目を受けるまでの間は司法試験の過去問を解くとか演習本を解くことを中心にアウトプットの訓練に注力することで、司法試験合格に必要な知識を網羅出来なくとも最低限の知識を効率的に得るように工夫をしました。また、スマートフォンに短答式の過去問のアプリを入れて、通勤時間とかトイレとかで解くようにしていました。
B zadankaiまず、一日のサイクルは、何年目かによって違うのですが、本格的に勉強をした2年目3年目ですと、朝7時8時に職場に行ってから夕方までは仕事で、その間は勉強ができませんでした。夕方から21時までは授業があって、その後だいたい22時半か23時くらいまで大学にいて予習や復習をやっていました。週末については、土曜日は授業があって授業後は平日とだいたい同じような感じで、日曜日はあまり勉強できない日と一日勉強できる日が半々というくらいでした。次に、限られた時間内でどのような勉強方法の工夫をしたかということですが、Aさんがおっしゃる通り、まとまった時間がとれなくても少しの時間でも毎日勉強を積み重ねていくということを重視しました。特に2年目3年目は予習・復習が重要になるわけですが、授業直前または直後の予習復習は非常に効果が大きいので、通学の時間になんとか勉強時間を確保できるように、通学のルートを変えて座れるルートを探したりしました。あとは、そういった場所で予習復習しやすいように、資料を電子データにしてタブレットに入れるとか、書籍全体を持ち運ばなくてよいように一部をプリントの形にするとか、そういう工夫をしながらやっていました。一つ重視していたことは、社会人ということで時間が限られているので、使うマテリアルを増やさないということです。同じものを何回もやる、基本的なものを何回もやるということを重視しました。何回もやっていると、そのうち1回あたりにかかる時間も減ってきますので、そういったことを重視して勉強していました。
C 私は平日は、できるだけ定時であがれるように上司や同僚と調整をして、可能なら定時で上がらせてもらったうえで、それから電車に乗って、講義開始のギリギリに到着して、講義を受けて、21時の講義終了後だいたい2時間くらい自習室で勉強して帰るというのが日課でした。土曜日はほぼ朝から夕方まで講義があって、その後夜21時とか22時くらいまでゼミとか自主学習にあてていました。日曜日は、余裕があれば自習室等で勉強が出来たのですが、休養をとったり家族との時間を過ごすということも多かったかなと思います。また、限られた時間内での勉強方法については、先ほどBさんもおっしゃっていましたけれども、あまり手広くやらないということが大事かなというように思います。これが自分にあっていると思う教科書とか演習本があれば、それを繰り返し読むとか繰り返し解くとかをやっていく方が、結局は時間の節約にもなりますし、知識は定着したという気がします。
司会 職場の理解という点ですが、上司の方とかから理解を得ることが出来ましたか。筑波は平日18時20分から授業が開始しますが、残業しなきゃいけないとかそういった場面もあるかと思いますが、実際どうでしたか。
A 私の場合は会社の法務部に勤務していて、上司も比較的そういった資格の取得に理解のある方だったので、仕事の配分等について多少の配慮はあったと思います。ただ、授業の出席率は良かったと思いますが、自分がこなさないといけない仕事が定時に終わらないこともあったので、授業のない月曜日に残業をするとか、あるいは授業の終わる9時以降に会社に戻って仕事をするということが多少ありました。
B 職場の理解がどの程度得られていたかは分かりませんが、一応職場にロースクールに行く旨を伝えて通っておりました。気を付けていたのは、仕事もそれなりのスピードをもって取り組み、仕事に影響が出ないようにすることにより、しっかり通学できるようにすることです。どうしようもない忙しいときは授業をたまに休むこともありましたし、授業が終わった後職場に戻って仕事するということもありましたけども、仕事も時間内に終わるようにして、勉強も次の日の仕事に影響を及ぼさないようにやっていました。両方ともそれなりに緊張感を持ってやれたので良かったと思います。
C 私の場合は、早め早めに、大学の講義スケジュールとか、受験日程とか、試験に合格した場合はこうだとか、あるいは合格しなかった場合はこうだといった予定を、比較的先だって職場に伝えていました。合格発表は毎年9月にあるわけですけれども、その前年の秋頃には自分はこういうふうに合格発表後までのスケジュールを考えていますということを職場に伝えていました。早め早めの情報提供が職場で理解を得られる一つ理由だったのかなというふうには思います。
司会 さて、今までの話と重複するかもしれませんが、受験勉強においてどのような点を重視されていましたか、また合格に直結したなという勉強はどのようなものですか。
A zadankai重視したのは、先ほどの話と重複しますが、インプットではなくアウトプットにいかに重きをおくかという点です。2回目の受験までの1年間はそういった点を特に重視して勉強していました。今思い返してみると、司法試験の勉強は学問研究というイメージではなく、実践的な訓練をどこまでやるかという方が大事だと思います。料理が上手くなるためには料理をいっぱい作るしかないようなもので、司法試験の準備は料理やスポーツと類似していると思います。よって、たとえ知識が不十分だとしても、問題を実際に解いて問題にあたってみることが重要だと思います。合格に直結した勉強方法は、演習本と比べてもレベルが高い新司旧司の過去問を中心に解いたことと、解いた後で合格者の再現答案を見てどういった書き方をするべきか、どういったロジックで答案構成をするべきかを学んだことです。また予備校の答案練習を利用して、制限時間内で、本番に近い形でフルスペックの答案を書くという練習をしたことも合格に直結したのかなと思います。
B どのような点を重視したかということについては、私も先程申し上げたことと重複するのですが、あまり手を広げないこと、読んだり解いたりするマテリアルを増やさないということを重視しました。受験勉強にあたって、予備校本を含めると星の数ほど教材はあると思うのですが、信頼性の高いもの、つまり、過去問やその出題趣旨、みんなが使っているような基本書や演習書、大学での講義といったものに限定して、いかにそれらの理解を深めていくかということを重視しました。特にその中で、3年生では演習書を重視し、あまり手を広げない分、誰もが利用しているような教材は絶対に読む、それを限りなく100%に近い形で理解するということを目指して何回も読むということを重視しました。また、合格に直結した勉強方法については、そうやって自分が信頼する教材で学んだことを演習科目や自主ゼミなどで答案として表現することになるわけですが、それらの教材の内容を自分が理解しているということが読む人にしっかり伝わっているか否かという点を、返却された答案を見て確認するようにしました。また、同じ問題を解いた他の人の答案がどういう評価を受けているかというところも確認し、より良い答案の書き方を検討するようにしました。こういったことが合格に直結した点かなと考えております。
C 司法試験は、短答式試験と論文式試験で構成されるわけですけれども、短答式試験の場合は特に何を重視していたということではないのですが、知識としては授業で扱うレベルのものを理解していれば十分解答は可能かなというふうに思います。それで過去問を何度か回して解いたという程度の対策でした。ただ、気を付けていたことは、解いた後解きっぱなしにしないということでした。解きっぱなしだと知識が定着しなくて、むしろ解いた時間が無駄になるので、間違えた問題を中心に、時間はかかるのですけれども、しっかりと解説等を読んで復習することが大切だと思っていました。それから、論文式試験の方は、先ほど申し上げたことと重複しますが、何度も過去問を時間内に解くということで試験に慣れていくことを重視しました。その中でも特に、理論的な文章、筋道の立った文章、なぜそうした結果が出るのか、あるいは何でそういったことが言えるのかという理由を丁寧に記述するというところを意識して、例えば事実の評価とかあるいは条文の評価とかそういったところは手厚く書くようにはしていました。
司会 予備試験の受験者数が増えてきているわけですけれども、法科大学院に行かないで予備試験を受験するという考え方と、法科大学院に行くという考え方の2つあるわけですが、このあたりはいかがお考えでしょうか。
A 法科大学院を卒業するために3年間授業に出続けなければいけないという負担から逃れられるという点では、特に社会人にとっては法科大学院に行かないで予備試験を受けることのメリットは大きいでしょう。一方で、言うまでもないことですが予備試験は合格率が非常に低いというリスクがあります。また、予備試験になくて法科大学院にあるものとしては、先生方との交流もありますけれども、それ以上に同じ環境で受験に向かって精進していく仲間がいることが挙げられます。先ほどBさん、Cさんから自主ゼミを組んだという話もありましたが、私自身も3年生の時には志を同じくする同級生と自主ゼミを組んで勉強しました。そういった仲間との間で精神的なサポートをお互い得られるという意味では法科大学院の方が良かったと思います。
B 私は、予備試験だけを受験するのと法科大学院に行くのとどちらがより良い法曹を育てられるのかという理念的なことは分かりません。ただプラクティカルな面でいいますと、私は3年生の時に予備試験を受験しましたが、予備試験だけに賭けるというのはかなりリスキーだなというふうに思いました。というのは、まず、予備試験の内容として、択一・論文・口述のいずれにも、学部では習わずロースクールで習うような要件事実論、刑事事実認定や、模擬裁判をやってみないと身につきにくい実際の訴訟手続の流れといった内容が相当程度入っているので、私が受験した感じでは、ロースクールの授業を受けていないと相当きついという感想を抱いたためです。また、予備試験には択一・論文に一般教養の試験があるのですが、特に論文は未だに採点基準がよくわからないので、この点もかなり不確定要素が多いと思います。さらに、予備試験は5月に始まって合格発表が11月ということで半年くらいかかるわけでして、その間、択一・論文・口述と何回も試験があって、その度に緊張したり緊張が緩んだりということを繰り返すのですが、万が一不合格となった場合その半年間のロスというのはかなり大きいと思います。口述試験の帰り道に、それまでの緊張が緩みきって歩きつつ、「予備試験は割に合わない…」と思ったことをよく覚えています。ロースクールに通いながら予備試験受験というのであれば、ロースクールで学んだことを試す機会としては良いと思うのですけれど、予備試験だけに賭けるというのはかなりリスキーかなというのが予備試験を受けての感想です。
C 私も、自力で予備試験の限られた合格者の中に入っていけるだけの知識や学習環境を用意できるのであれば、挑戦してみる価値はあるのかもしれないですけれども、そういった見込みがはっきり立つ前に予備試験一本に賭けるということでは合格に至るのは難しいのかなと思います。そういった見込みがはっきり立たないというのであれば、法科大学院制度というものがしっかり用意されているわけですから、そこで知識を吸収していくとか、あるいは演習に取り組んでいって着実に司法試験の合格に向けて準備していく方が確かだと思います。
司会 みなさんは法曹資格を得たわけですけれども、今後の抱負をお聞かせください。
A 自分自身は会社での職務もありますので、司法修習に行くかどうかもまだ決まっておらず、今後司法試験合格というステータスをどのように生かすかはまだ明確になっていません。場合によっては今後司法修習を経て弁護士資格を取ることになるかも分かりませんし、あるいは特例を使って弁護士資格を取得することもありうるかもしれません。いずれにしても会社での業務あるいは弁護士としての活動においてこれまで得た知識を生かしていきたいと思っています。
B 私も司法修習に行くか行かないか、行くとしたらその時期はいつなのかということは全く決まっていません。私の場合はもともとの入学の動機が法律という分野において専門性を高めるということでしたが、法令の解釈や立法に関して以前と同じ業務をしていても、以前よりも専門的知見を持って臨むことができているように思います。ただ、もちろん専門性の追求は司法試験の合格をもって終わりということは全くありませんので、引き続き法律の分野でも専門性を高めていくという意識をもって仕事に臨むとともに、もし可能であれば修習にも行ってみたいと思っております。
C 私も行政機関で働く中で、行政における法曹実務家のニーズがますます高まっているという点は感じているところです。これまでの職務経験に加えて、法科大学院とか受験勉強で学んだ内容というのはすぐ職務で生かせることが多くて、受任弁護士との打ち合わせの中でも“こういった訴訟進行が考えられるのではないか”といったことをこちらから提案できるところまできていますので、これからも学んだ実務知識を生かして仕事をしていきたいと思っています。あと、司法修習も貴重な法曹実務家養成課程ですので、できれば近いうちに参加したいと思います。
司会 最後にこれから法曹を目指そうとする方々にアドバイスがあればお願いいたします。
A この座談会を筑波のホームページでご覧になる方は、おそらく社会人で法曹資格を取りたいという方々だと思います。当然社会人になると、仕事、家庭、子育て等、勉強に注力することを許さない要素があると思います。ただし司法試験は、そういった環境でも正しい方法論で真面目に勉強していれば受からない試験ではないと思いますので、自分の努力が花開くことを信じて頑張っていただければと思います。
B 同じく社会人として法曹を目指そうという方々に向けたアドバイスになるのですが、一度社会で経験を積まれて、なお法曹を目指そうという方々ですので、一般的に言って普通の学生の方々と比べると、なぜ法曹になりたいのか、なる必要があるのかといった問題意識は高いと思います。また、社会人としての経験もありますので、時間、資金、人といった限られた資源を最大限に活用して成果を出していく能力は、普通の学生の方々と比べると高いと考えます。そういった高い意識と培った能力を持ってすれば、決して不可能な試験ではありませんので、ぜひ当初の問題意識を持ち続け、目標を達成できるように勉強していただければと思います。
C 先ほど予備試験の話も出ましたが、法科大学院制度自体に色々な意見もあって、筑波大学法科大学院のホームページを見ている方も色々迷いながら見ているところもあると思います。ただ皆さんが法曹をなぜ目指そうとしているかというその点を大事にしていただいて、そういった原点を忘れなければあまり周囲の意見は気にしなくて良いのかなと思います。筑波大学法科大学院は社会人が法曹を目指す有力な手段であることは間違いなく、教員や施設を積極的に、積極的にというところが大事ですけれども、積極的に活用していけば大きな成果が得られるはずです。ぜひ頑張っていただきたいと思います。
司会 本日は本当にお忙しい中集まっていただいて、貴重なご意見をいただきました。本当にありがとうございました。