2003年3月 都内私立大学法学部卒業
2016年4月 筑波大学法科大学院未修コース入学
2019年3月 筑波大学法科大学院未修コース修了
2021年9月 司法試験合格
1.はじめに
私は現在42歳で地方公務員を勤めています。大学は法学部でしたが、主に行政を専攻していたので法律知識は公務員試験のときに勉強した憲法、民法、行政法くらいしかありませんでした。現在の仕事に不満はありませんが、自分のポジションが中堅になっていくにつれ、専門性を磨いてみたいと思うようになり、筑波に入学して、司法試験にチャレンジしようと思いました。
結論からいえばこのチャレンジは大成功だったと思います。筑波は司法試験の合格はもちろんのこと、将来に生きる専門知識や生涯の財産であるたくさんの友人を得ることができた場でした。もしこの体験記を読んでいる方で、まだ入学を迷っている方がいれば是非とも筑波の入学をお勧めします。筑波は、人生を変えてくれた素晴らしい場所です。
2.これから筑波で勉強しようとしている皆さんへ
「合格体験記」なので自分の体験を書くべきですが、私は司法試験に3回目で合格した出来の良くない受験生です。思い返すと友人はたくさんでき、本当に楽しい思い出ばかりですが、逆にいえば、受験勉強そっちのけで飲み会などを楽しんでいました。そこで、ここでは過去の失敗を踏まえて、自分がもう一度受験するならばどうするかという視点で書いてみたいと思います。
3.心身の健康、そして家族や友人を大切にすること
筑波に入って未修の人は3年、既修の人は2年の勉強期間があり、これは長いようで短く、短いようで長い期間です。例えるならば、フルではないにしても中距離のマラソンを走るようなものです。そこで、このマラソンを最後まで走り切るには、まずは走者=自分の「心身の健康」が大切になります。私の周りでも勉強意欲があるのに健康を害してしまい、学校の授業を受けられないため単位を落とし、最後は退学の憂き目にあった人がいました。
心身の健康は何よりも大切にすべきです。私はもともと運動不足もあり、受験中はこまめにジムに行っていました。ジムで汗をかくことはもちろん、そのあとの温泉やサウナ、最後のビールなど自分なりに気分転換をして、心身の健康維持につとめていました。気分転換にスポーツはとてもよいので皆さんにもおすすめします。
次に、難しい勉強をしていると、どうしても余裕がなくなり、家族や友人につらい態度をとってしまいがちです。しかし、本当にしんどい時に手を差しのべてくれるのは家族や友人です。勉強中は周りに気をつかう余裕はないと思いますが、それでも家族と友人は大切にすべきであると声を大にしていいたいです。
4.基本的知識を定着させる
いよいよ勉強方法です。
はじめは、授業を聴いたり、自分で教科書を読んでもさっぱりわからないと思います。私もそうでした。法律の勉強は使う言葉は難しく、抽象的な概念ばかり出てくるため、頭の中でイメージができず大変でした。そこで、基本的知識の定着をはかるため、簡単な○×問題(受験用語で「択一(たくいつ)」といいます)を繰り返しやることを強くおすすめします。
筑波に入るとTKCという司法試験ポータルサイトが利用できます。そこでは、憲法~刑事訴訟法の基本7法の簡単な○×問題(主に司法試験の択一問題の過去問)があります。一問一問が短く、ウェブサイト上の演習なので気軽に入力でき、間違った問題なども記録できます。パソコンを持ち歩くのが面倒ならばスマホなどの携帯端末でもできます。スキマ時間を利用し、問題をやってみて、自分が聴いた、読んだ知識がしっかりと頭に定着しているか検証すべきです。私はこの検証を真剣にやらなかったので、基本的知識の定着が曖昧でした。法的文章を書くときはこの基本的知識が前提となります。しかし、知識が曖昧だったので、いつまでたっても正確に書くことができませんでした。合格が遅れた大きな理由はこれでした。
そこで、授業を聴いたり、教科書を読んだ後には間を置かず、○×問題をやってみて、知識が定着しているか検証してみてください。繰り返しやっているうちに必ず定着します。皆さんも試してみてください。
5.論文対策はまずは過去問から
定期試験や司法試験は最終的には論文試験、つまり自分が書いた法的文章に対して成績評価をされます。なので、法的文章を書く能力はどうしても必要になります。そのためにはどうしたらいいでしょうか?私は法的文章を書くのがとても苦手だったので苦労しました。ここでは、論文試験のおすすめの対策について書いてみます。
論文「試験」である以上は過去問が必ず存在します。定期試験や司法試験でも同じです。そこで過去問をできるかぎり集めて、分析します。これからチャレンジする「試験」について、形式(問題数、試験時間)、継続して出題されているテーマの有無、出題者のくせなど、過去問を使って徹底的に分析します。また、その問題の優秀答案を入手できれば最高です。司法試験の過去問は予備校が優秀答案を販売しています。筑波の図書館でも借りることができます。そうして過去問の情報収集、分析をします。
そうすると、論文試験特有の形式がわかります。また、問に対してどのように応答する(文章を書く)と優秀な成績がつくのかがわかると思います。優秀答案を繰り返し読んでみて、各科目の文章の型(科目特性に応じた文章の型があるはずなのでそれを見つけます)、論理展開、問題提起のしかた、接続詞の使い方、条文の掲示方法、事実の掲示方法、その評価方法など読めばよむほど勉強になります。皆さんは授業で法的三段論法を学ぶと思いますが、法的三段論法を使った文章表現は、例えるならば水泳やテニスと同じく、実際にやってみる(書いてみる)ことをしないと会得は極めて困難です。このように、択一問題などで獲得した基本的知識を前提に過去問を収集、徹底的に分析して論文試験の傾向を早めにつかんでしまうことが早期合格のコツだと思います。
6.自分で書き、検証し、また書いてみる
傾向をつかんだら、今度は自分で答案を書いてみます。最初は時間に制限なく、参考図書を見ながら書いてもいいと思います。重要なのは最後まで自分なりに書いてみることです。
書いた文章はそのままにしておくのはもったいないです。是非検証してください。一番良いのは専門家に見てもらい意見をもらうことです。添削を受けることができれば最高です。
そのための場として、筑波は法律専門家である弁護士の先生が丁寧に教えてくれるチューターゼミが多く設置されています。このゼミのなかで自分が書いた文章を検証できるチャンスが必ずあります(必ずしも定期試験や司法試験が題材にならないかもしれませんが、提案すれば取り上げてもらえる可能性があります)。
私も在学中、沢山のゼミに参加してお世話になりました。さらに、ゼミに参加している他の学生の答案を見せてもらえるチャンスもあるでしょう。そのような機会を逃さず、自分と他人が書いた文章がどういう点が違い、それは何が原因なのか等、どん欲に検証すべきです。そして、検証後、もう一度同じ問題を書いてみます。今度は時間を測ったり、参考図書は何も見ないで書いてみてもいいかもしれません。そうして、書く→検証→再び書く、という作業を繰り返しているうちに試験内容はもちろん、その中で出てくる知識や論点などは暗記してしまうはずです。すると、試験対策上、貴重な知識やノウハウの財産ができます。そういった財産をたくさん作って本番に望みます。本番ではこの財産を問題に従ってうまく表現するだけです。もちろん、試験後、答案が返却されたら検証→書くという作業を行い、財産を増やしていきます。司法試験に一発で合格する人たちは在学中、たくさんの財産を作っていた人たちだと思います。筑波にはそういった財産を無理なく作っていける場(チューターゼミ、先生への質問、先輩・友人のアドバイスなど)がたくさんあります。
7.仲間、戦友をつくる
そして、ここが一番大事だと思うのですが、苦労して獲得した情報や知識、ノウハウをクラスメイトや先輩・後輩に進んで情報公開します。間違ってもお金をとってはいけません。全部無償です。そうすると自然に自分の周りにいろんな人が集まってくるのではないでしょうか。逆に、自分にない知識やノウハウを教えてもらえるかもしれません。
情報交換して顔と名前を覚えたならば、気の合う仲間たちと一緒に自主勉強会をしてみてください。例えば、論点や判例について突っ込んで勉強する、ある先生の定期試験の出題予想をする、時間を測って司法試験の過去問を解いてみるなど、いろいろとテーマはあるはずです。そうやって仲間たちと苦労して獲得した成果は非常に大きいです。自分一人で勉強したことよりも大きいかもしれません。
さらに、苦労を共にした仲間たちはいわば「戦友」です。彼または彼女たちは自分自身が辛いときや司法試験を諦めようとしているときに絶対に手をさしのべてくれます。私もそうでした。戦友がいなければ筑波を修了することもできなかったと思います。
加えて、何よりも素晴らしいことは、念願かなって司法試験に合格した暁には、そういったかけがえのない戦友たちが生涯を通じて、心強い仕事仲間、パートナーになります。これほど心強い仲間はいないと思います。筑波ではこのような戦友、仲間をつくるチャンスにあふれています。
8.最後に
以上、偉そうに長々と書きました。振り返ってみると、書いたことを自分はほとんどできていません。それでもこうして何とか司法試験に合格できたのは、家族や筑波の恩師、チューターゼミの先生、友人たちに支えられていたからだと思います。真面目でも優秀でもない私でも司法試験に合格できたのは、やはり筑波の力だと思います。どうか皆さんもこの筑波に入って志をとげていただければと思います。