本専攻修了者による令和2年度司法試験合格者座談会

出席者:Nさん、KAさん、Iさん、KOさん、千住さん

司会:萬澤陽子准教授 同席:渡邊卓也准教授、日野辰哉准教授

司会 本日はお忙しいところお時間をお取りくださり、誠にありがとうございます。
 
◆まずは、皆さんのプロフィールを簡単にご紹介ください。
N 私は法学部出身で、旧司法試験受験歴もあります。筑波大学ロースクール(以下、筑波ロー)では2013年4月に未修コース(以下、未修)に入学し、2016年3月に修了しました。5回目の受験で合格できました。
KA 私も法学部出身です。2018年4月に既修コース(以下、既修)に入学し、2020年3月に修了しました。修了後、1度目の受験で合格することができました。
I 私は、工学部出身で、理工系大学院の修士課程も修了しています。2019年3月に未修を修了しました。2回目の受験で合格できました。
KO 私は、外国語系の学部出身で、筑波ローに通うまで法律の勉強をしたことはありませんでした。2017年4月に未修に入学、2020年3月に修了しました。そして2020年の初受験で合格することができました。
千住 私は、理系の学部・大学院を修了しております。2015年4月に未修に入学、2018年3月に修了しました。3回目の受験で合格できました。
 
◆次に、入学した経緯などお聞かせください。
N 私は、会計事務所で行政書士として働いたことがあったのですが、行政書士としてできることには限界を感じ、弁護士資格を取りたいと思い、法律事務所に転職しました。そこで、弁護士の先生の業務を間近で見て、弁護士に対するあこがれがより具現化するようになり、働きながら通える筑波大学に入学しました。
KA 私も、在学中も現在も同じ法律事務所に勤務しているのですが、最年長の弁護士は傘寿を過ぎても顧客からの信頼が厚く現役です。活躍する姿を間近で見て、定年のない生涯現役の人生に憧れ、入学を決意しました。
I 私は、現在、素材メーカーの知的財産部に所属しています。筑波ローに入学した経緯は、技術者として実務経験を積む過程で知的財産法に興味を持つようになって、弁理士資格を取得しまして、その後、社内の知的財産部に異動し、法に携わる機会が増えて、もっと勉強してみたくなったということにあります。そして勉強するからには、弁護士資格を取得したいと思いました。とはいえ、知財の実務経験を積みたいことから仕事は辞めたくないし、法学未修者の自分が予備試験に合格することは困難と思い、筑波ローに入学することを選びました。
KO 私は、在学中も現在も同じ外資系IT企業に勤めています。入学前には、営業部門等に所属していたのですが、仕事上で、法務部の方と接する機会が増えるようになって、その専門性の高さに憧れて、社内の法務部に異動したいと思うようになりました。でも、社内では法務部のスタッフは資格を持っていないといけないという不文律のようなものがあって、それなら取ってみようと思ったことが入学しようと思ったきっかけです。
千住 私は、学生の頃から知的財産に興味があって、弁理士資格を取得していました。大学卒業後は民間企業の知的財産部に就職し、現在も当時とは異なる企業ですが、民間企業の知的財産部で働いています。入学した経緯は、職務上、知財系の弁護士の方とお仕事する機会があったことで、弁護士に対するあこがれを持つに至ったこと、弁理士の資格とあわせて仕事に生かしたいと思うようになったことです。また、当時、弟が司法試験に合格したことも動機付けとして大きく働いたと思います。そして、当時の上司が夜間の大学院に通って資格取得を目指していたのを見て、仕事しながら資格を取得する道があることに気づき、筑波ローを受験し入学するに至りました。
◆在学中について、どのように勉強したか、どのように仕事と学業を両立させたか、また、ロー・スクールの提供するものでよかったもの、足りなかったもの等についてお聞かせください。
N ロー・スクールでよかったのは、さまざまなバックグラウンドを持つ方々と知り合えて、仲間になれたことです。学生同士の関係は密で、とても刺激的でした。特に理系の人の考え方は新鮮でした。
また、先生には、答案を見ていただいたりして、非常に有益なアドバイスをいただくことができました。特に、ある先生からいただいた、「途中答案になるくらいなら法律構成だけでも答案に箇条書きにしなさい」というアドバイスは、本番でも、とても役に立ちました。
KA ロー・スクールで困ったことは、私は既修者だったので、入学した時、すでに未修者が1年間かけて作ってきた輪ががっちりできていて、その中に入ることでした。また、時間がタイトで、毎日の授業やチューターゼミ、自主ゼミをこなすのに精一杯でした。でも、筑波ローは実践的な授業が豊富で法律事務所の仕事とリンクして理解はしやすく、また事務所は応援してくれたので、その点では恵まれていたと思います。
I 私も会社からの理解はある程度得られていて、令和2年の本試験前の1週間、有給をもらえたことは大変ありがたかったです。ただ、在学中は、特許法以外はほぼ純粋未修の状態でしたので、苦戦しました。勉強のやり方がよくわからなかったんですね。試行錯誤しながら何とかやっていましたが、3年次になるまで、アウトプットの学習をほとんどやっていませんでした。これは、1回目の受験で合格することができなかった決定的な要因であったように思います。3年次になって授業に演習科目が入ってきて、時間内に書く練習をするようになり、3年次の秋以降、授業が少なくなった頃から、チューターゼミにも出るようになって、やっと本格的にアウトプットの学習をするようになりましたが、少々遅かったと思います。
KO 私は、在学当時、直属の上司以外にはロースクールに行っていることを明かしていなかったので、会社から特別な配慮はしてもらっていませんでした。そういったこともあり、授業はいつもギリギリ到着でした。でも、授業後に授業の録画を視聴したり、また出張等で大学に行けない時はリモート参加をしたり、そうしたロースクールの柔軟な制度に助けられ、なんとか乗り切れました。
もっとも、私は純粋未修だったので、最初の1年はとにかく大変でした。定期試験でも、真っ白な答案用紙に黒いペンで最後まで書き通すことができるか不安でした。1年目は成績も安定せず、理解するのが難しかったです。
転換点となったのは、3年次の「模擬裁判」や「実務の基礎」等の授業だったと思います。これまで、ひたすら暗記してきた「点」として散在していた知識が、実務に近い内容に触れることで「線」として繋がり、理解できたと感じた瞬間がありました。
ここまで辿り着くことができたのは、筑波のカリキュラムのおかげだと思います。思い返すと、筑波の未修のカリキュラムは、1年目は研究者教員による授業で基本をインプットし、2年目から徐々に実務家教員による授業にシフトしていくよう組まれていたと気づきました。試験の直前期に、実務家の先生方が教えてくれた、当てはめの肌感覚が記憶に残る状況になっているということは、本試験受験の上でも、とてもよかったと思います。
千住 私も在学当時の職場にはロー・スクールに行っていることを言っていませんでした。また、職場が遠く、授業にはよく遅刻し、勉強に集中することができなかったために、2年次の時に転職し、また茗荷谷に引っ越し、勉強のための環境を整えました。
知的財産法は勉強していましたが、ロー・スクールの授業では、学ぶ量が比較にならないほど多く大変でした。でも、勉強の環境を整えることができた2年次以降は、授業の復習のみならず予習の時間をできるだけ取るようにし、とにかく授業内容を理解しようとしました。それが功を奏し、3年次の成績が一番よい結果となりました。
筑波ローのよいところは、授業の質が高いことと思います。学生が社会人だからと言って、そのレベルを下げることはしません。仕事をしながら勉強するという同じ境遇の人たちと期末試験対策の自主ゼミをする等、仲間として切磋琢磨できたことも、とてもよかったです。また、24時間の自習室もよく利用させてもらいました。
 
◆ロー・スクール修了後から本試験まで、どのように過ごされたかお話いただけますか。
N 私のように5回の受験と受験勉強が長期間に及ぶ場合、勉強継続のモティベーションを持ち続けることが大変重要と思うのですが、私は同期と一緒に勉強したり、先生に答案を見てもらうことで乗り切りました。1人では勉強を継続できなかったと思います。あと周囲の人から叱咤激励を受けていたことも大きかったです。最後の本試験は半年くらい前に仕事を辞め、勉強に専念しました。
KA 私は、(既修)2年次の12月頃に単位を取得し終わって授業がなくなった後、勉強のペースをつかむために、大学の自習室をフル活用して本試験の5月を迎えようと思っていました。でも、コロナで3月以降、大学に行くことすらできなくなってしまいました。家に一人でいると自信を喪失してしまうので、ここは基本に立ち返り、授業の復習をしたり、ゼミのレジュメを読んだり、条文を素読したりしました。応援してくれた職場にいい報告をしたいという気持ちが、最後、頑張ることができた原動力と思います。
I 私は、1回目の受験で、短答は通ったのですが、論文で撃沈しました。その時の成績(総合評価)は2700番台でした。そこで何が良くなかったかを振り返って、いくつか反省すべき点を明確にしました。まず、判例・通説を押さえることは基本と思うのですが、それだけでは足りず、学説の対立が激しいものは、やはり押さえておくべきだったと思いました。また、マイナー分野でも基礎知識は最低限知っておくべきだったとも思いました。総じて、勉強不足だったんですね。5科目で時間不足でしたし、順位ランクがFだったものもあります。また、先ほど申し上げたように、書くトレーニングが足りなかったと思いました。
2回目の受験は、総合評価1000番台で合格できました。とにかく書く練習をしたことと、1回目の本試験がなぜ不合格だったかを意識して勉強したことが勝因と思っています。
KO 私は、修了した2020年3月頃から在宅勤務になり、勉強の時間が確保できるようになると思いきや、むしろ生活のリズムが崩れてしまい、それを戻すのに苦労しました。でも、直前期には、これまでの総復習に取り組みました。
具体的には、過去問の復習をしたり、採点実感を読み込んだり、模範答案を写経し早く綺麗に書けるようにトレーニングしたりしました。
あと、3年次の12月に選択科目のゼミを大学に申請したところ、迅速に対応していただいたのですが、ゼミの担当の先生から論文の体裁面についてのご助言をいろいろいただきました。具体的には、1文を短く、接続詞に気をつける、趣旨に触れる等といった基本的なものなのですが、こういった体裁面だけでも本番で整えようと思い、意識して書く練習をしました。また、大学の演習で 先生方からご指摘いただいていた自分の弱点も思い返し、それもあわせて意識しました。これは本試験にとても役に立ちました。
千住 私は、ロー修了後、1回目の受験では、比較的、勉強時間が取れたのですが不合格で、2回目は職場が変わったこともあり勉強に集中できずまた不合格でした。ただ、2回目の受験で一緒に勉強してきた同期が合格し、それが焦りといい意味でのモティベーションになりました。また、2回目の受験の際に、同期の合格者が開催してくれたゼミに参加するなど、量は少ないながら、勉強は継続できていました。そして、3回目の受験では、仕事も落ち着き、より時間をとって勉強できて合格を勝ち取ることができました。勉強内容としては、苦手科目の克服を意識し、過去問分析をしっかり行うとともに、同期の合格者にゼミで答案添削してもらい、指摘された悪い点を修正しました。また、大学での授業を思い出しながら、基本論点を頭に叩き込みました。その結果、合格に必要なレベルまで到達できたのだと考えています。
 
◆これからのご自身のビジョンと、後輩へのメッセージをお願いします。
N 私は、今年修習に行きます。法律事務所をまわって就職活動もしているところです。企業法務や刑事を扱っている事務所に行きたいと考えています。
後輩へのメッセージですが、司法試験は基礎が問われる試験ということは、まず押さえてほしいと思います。そして、応用は、あくまでもその基礎を土台にしてどれだけ簡潔に書けるかで勝負するものです。これに気づくまで、私は少し時間がかかってしまいました。法の基礎的な知識を得て、思考方法を鍛える上で、筑波ローは最高クラスの環境と思います。基礎をおろそかにしては合格につながらないので、基礎を大切に、合格を勝ち取ってください。
KA 私も、今年修習に行きます。そして、現在勤めている法律事務所に恩返しをしたいです。
後輩へのメッセージですが、2つほど。私も、大学の授業と本試験は非常に密接に結びついていることを本試験場で実感しました。とにかく、毎日の授業を大事にすることが合格への近道と思います。
もう一つは、入学前、私は、筑波ローのホームページを見て、専門性の高いすごい人たちの集まる場所ではないかと気後れしてしまい、受験するまで時間がかかってしまいました。小さい法律事務所で、パラリーガルもしますが、雑用もたくさんする私が、入っても大丈夫なのかと思っていたんですね。入学後、確かにすごい人たちばかりで、気後れする気持ちからなかなか抜け出せませんでした。でも、そういった人たちから得る刺激や授業で得る刺激はとても大きく、どんな些細な仕事にも役立ちます。充実した毎日でした。気後れする必要なんて全くなかったと思います。受験を迷っている方、尻込みするのはもったいないです。是非、1歩を踏み出して、人生の選択肢を広げてください。
I 私も、今年修習に行きます。会社は休職して、修習後また戻るつもりです。会社とは、法務部に異動することの話もしています。知財分野を得意とする、かつ社内の技術もわかっている弁護士として、新たなキャリアをスタートしたいと思っています。
後輩、というか在学生にメッセージですが、未修者の場合、一発合格のためには、2年次が終わる時(3年次になる前)までに過去問をある程度解いておく必要があると思います。そして受験までの1年、合格のためにどう過ごすかを決めることが有用と思います。合格者が1500人(令和2年は1450人)で受験生の数が減っているのですから、司法試験が受かりやすくなっているのは間違いないです。頑張ってください。
KO 私は、まだいつ修習に行くかは決められずにいます。今の会社で弁護士として働きたいので、休職をして行けるタイミングをみつけたいと思っています。
メッセージですが、仕事をしながら勉強もし資格取得を目指すことは並大抵のことではないですが、社会人としての経験・知識は法律家になる上で大きく役に立つと思いますし、そういった法律家が増えることは、社会にとってもとても望ましいことと思います。諦めずに、合格を勝ち取ってください。
千住 私も、まだ修習に行く時期を決められずにいます。会社と相談してその時期を決めるつもりです。
修了生で受験されている方へのメッセージですが、司法試験は簡単ではないですが合格が困難な試験ではないので、勉強を継続していれば努力はきっと実るということです。「継続」がとっても重要と思います。
在校生へのメッセージは、大学の授業を大事にすることが重要ということを強調したいと思います。筑波ローでは、合格に必要な高度なことを網羅的にやってくれています。復習のみならず、できれば予習もする時間を確保して、授業の内容をマスターしてください。困ったときには、先生に相談するのも良いと思います。筑波ローの先生方は、熱心かつ親身になって相談にのってくださいます。
そして、筑波ローの受験を迷われている方へのメッセージですが、法律の世界、大変だけれどとても楽しいので、是非飛び込んでほしいということです。
 
司会 本日は、誠にありがとうございました。