本専攻修了者による令和元年度司法試験合格者座談会

2019年10月6日(日)15時~16時30分

出席者:Tさん、Sさん、Kさん、Mさん、W.Rさん
司会:日野辰哉准教授 同席:田村陽子教授・渡邊卓也准教授

司会 本日はお忙しいところお集まりいただき、本当にどうも有難うございました。
 
◆まずは、皆さんのプロフィールを簡単にご紹介ください。
T 私は法学部出身で、入学前の司法試験受験歴もあります。筑波大学ロースクール(以下、筑波ロー)には、2015年4月に未修コース(以下、未修)で入学し、2018年3月に修了しました。2回目で合格しました。在籍中の職業は、埼玉県庁の職員です。
S 法学部卒です。学部4年生の時と新人1年目に旧司法試験を受験しました。2009年4月に未修で入学し、途中で長期履修に変更し、2017年3月に修了しました。3回目で合格しました。職業は一般民間企業です。
K 法学部出身で学部在学中に旧司法試験を経験しておりました。2017年4月に既修コース(以下、既修)で入学し、2019年3月に修了しました。司法試験には1回目で合格しました。入学時には一般民間企業で管理系の仕事をしておりました。
M 法学部出身です。(筑波ローに入学するまで)今まで司法試験は考えたことがありませんでした。未修で1年目修了時に長期履修に変更し、2019年3月修了しました。入学時には日本の証券会社に勤めておりましたが、途中で外資に転職し、司法試験受験の10か月頃前に退職しております。1回目で合格しました。
W.R. 理学部出身で、気象学専攻をしていました。大学院に進学し、理学修士を取得後に就職しました。その後、弁理士資格を取得して、その際に法律科目を多少勉強した程度です。2015年4月に未修で入学し、2018年3月に修了しました。司法試験には今年2回目で合格しました。研究を業とする民間企業に勤め、知的財産を担当しておりました。
 
◆次に入学した経緯などについてお聞かせ下さい。
T 県庁では消費生活支援センターに所属しておりました。法的知識がなくて被害にあった消費者の方々を見つつ、弁護士会の先生と連携して相談及び解決にあたっていたときに、自分の法的知識を向上させたいと思いました。筑波ローを選んだのは、勉強で学んだ知識をすぐに仕事に活用できると思ったからです。筑波ローに通うにあたって、職場からの理解を得ることができました。例えば土曜日には、仕事を入れないようにしてもらうなど様々な配慮を頂きました。今後も同様に、学んだ法的知識を(県庁での)仕事に還元したいです。
S 仕事に関連していたことと、入学を志望した当時は、まだ司法試験合格者数が増加傾向にあり、旧試よりは受かりやすいと思ったことがありました。また2009年当時、本大学院が秋葉原にあったのでアクセスが良かったこともありました。上司からの理解を得ることができました。修習にも行かせてもらえることになり、その後、現在の職場に戻る予定です。
K 仕事で法務関係の仕事をしていましたが、資格がないというコンプレックスがありました。自習では司法試験受験のため時間を確保することについて職場に配慮してもらうことが難しかったのですが、筑波ローへの通学であれば、勉強するために残業を減らすことについて職場の理解が得られると思いました。結局、仕事は途中でやめて勉強に専念することになりましたが、筑波ローを選択したのは、働きながら通える夜間のローであるということでした。
M 証券会社の仕事では、当初、英語ができていれば十分通用していたのですが、職場にインハウス・ローヤーが増え、自分の地位も危うい気がしてきたので、法律の勉強をし直す必要性を痛感しました。学部時代は法学をきちんと勉強していなかったので、最初の就職先が法律事務所で弁護士が身近にいたにもかかわらず、その当時は弁護士資格を取得することはまったく考えておりませんでした。その後、証券会社に移ってから、周囲に働きながら夜間のロースクールに通って弁護士資格を取得した人がいることを知るなどの経緯もあり、自分もできるかなと思った次第です。当初、学部への再入学も選択肢にありましたが、周囲からはロースクールを選択する方が良いと言われ、働きながら通える筑波ローを選びました。職場の理解は得ることができていましたが、結局、やめることになり、次の転職先の外資には、最初から通学を条件に採用してもらいました。転職後、長期履修に変更し、週2日の通学から始め、2年目には週3日へと徐々に増やしたのですが、4年目に仕事と司法試験の受験勉強との両立が大変になり、退職しました。
W.R. 弁理士会で法律の勉強をする機会があり、さらに勉強を深めたいという思いがありました。また、40歳代半ばになり退職後のことが気になり始めた時期でした。弁理士の友人で、法学博士号を取得するために仕事を辞めた方がいて、その方の前向きにチャレンジする姿勢から刺激を受けたということもあり、自分も司法試験を受けてみようと考えるようになりました。仕事を辞めずに通うために、筑波ローを考え家族に相談しました。通学に当たっては職場の理解を得る必要がある思い、上司に率直にロースクールに入学したいと相談したところ、いろいろチャレンジすることを推奨する方だったので、応援してくれました。人事部局にも相談したところ、仕事をおろそかにしなければ、アフターファイブで勉強するなら、人事部局として口出しできないといってくれました。こうして、上司も仕事もある程度調整はしてくれましたし、また、自分で時間を融通することができたので5時になるとオフィスを離れることができました。繁忙期になると、さすがにそうもいかない場合もありましたが、それでも仕事を打ち切って通学していました。
教員 皆さん職場の理解を得られることができたとしても、実際に通学するのは大変だったのではないですか。皆さん遅刻していた印象はありませんでしたが。
W.R. 結構、通学は大変でした。勉強や課題の量も多く、特に課題の締め切りがきっちり設定されている場合が大変で、おなかが痛くなりました(笑)。
T 在籍中に人事異動があり、労働委員会に配属されると、委員会の期日が期末試験と重なることがありましたが、上司は理解してくれました。
K 残業は減らしてもらえたり、早朝に出社して、授業に出席できるように仕事を調整したりしました。ただ、やはり大変だったので、仕事を辞めることになりました。既修だったので1年目から課題や判例報告があり、こうしたことに取り組む時間を確保するのが大変でした。授業に出る時間を確保しないといけないことは予定していましたが、課題をこなす時間までは想定していなかったので、仕事のやりくりで確保できる時間を超えてしまいました。課題があると、その部分についての記憶の定着にはいいとは思いますが、自分としては、講義以外は学生の自主性に任せたほうが望ましかったように思います。
教員 私の場合、1年生の科目でも、レポートを書いてもらっていましたが、どうでしたか。ない方がよかったでしょうか(笑)。
M 私は、学部時代に答案の書き方のイメージはある程度ありましたが、書き慣れていない科目だと、定期試験でいきなり答案を書くよりも、講義の途中のレポートを通じて、基礎的な知識の理解ができているか、お作法ができているかなどを先生からチェックしてもらった方がよかったと思います。とくに純粋未修の方は、答案の書き方がわからないので、予備校本を読み漁るなどして対応されていましたが、授業の中でそうしたことに対応することは意味があると思います
T 私は純粋未修ではなかったのでどちらとも言えませんが、純粋未修の方にとっては中間テストで問題を見てビックリする方がいたように、やはり答案の書き方が判らないのだと思います。ものの本を見て自分で解決できる人は優秀な方で、そうでない多くの人にとっては、もっと授業の中で、書き方を教えてもらってもよかったと思います。三段論法で書くということを、文章で表現できず、その結果、なかなか単位を修得できずにフェイドアウトしてしまう方をみてきましたので、授業の中で、解答例付きで課題を出してもらうと、答案の書き方がよくわかるようになり、全体としてのレベルが上がるのではないかと思いました。
W.R. 私は弁理士の受験経験があったので、法律の答案の書き方を知っているつもりでしたが、いま振り返ると、ただ論点を挙げて答案用紙を埋めていくという傾向が強く、三段論法という枠の中で答案を書くことが求められる司法試験とは違っていたので、その修正がなかなかできませんでした。その違いを明確にわかったと感じたのは、1回目の司法試験を落ちてからでした。
 
◆入学後の勉強方法や仕事との両立の大変をどう克服されましたか。在学中の工夫などについて教えてください。
W.R. 私は、授業を全部録音して、帰り道に2倍速で聞いていました。平日朝は始業前に早く職場に行って、予習・復習をしていました。チューターゼミについて、長く参加したのは刑法、行政法、会社法、知的財産法でした。憲法、会社法、民事訴訟法などは自主ゼミをしていました。在学中はゼミをよく活用した方だったと思いますが、修了後は、時間をかけてまで茗荷谷に来られなかったので、ほぼ独学でした。独学とゼミとどちらが良いかはわかりませんが、好きなのはゼミでした。みんなでわいわいやるのが楽しかったです。修了後は、解答例が付いている演習書を使って、自分の答案と比べて勉強していました。短答については、過去問をやっていました。1日20問やると、4日くらいで過去問1年分が終わるので、それを何度も繰り返しました。演習問題で分からないところは、先生にメールで質問することもありました。あとは、インターネットで調べたり、判例の解説や百選を読むことで、自分でなんとか解決していました。
M (予習・復習のための勉強時間を大学院以外の場所で確保することが難しかったので)講義開始時刻にまでに何とか仕事を終わらせ、講義に集中し、講義でわからないことがある場合には講義終了後に先生に質問するなどして、できるだけ学校で解決するようにしました。なので、授業前にレジュメの項目を見て、これから始まる講義の内容を考えるなどして限られた時間を有効に活用することに意を用いました。自主ゼミ・チューターゼミに参加する時間的余裕はありませんでした。講義を受けてもわからなかった部分がある場合は、(先生方がお薦めするテキストが難しすぎることもあり)インターネット等で初学者向けで理解し易いテキストを探すなどして、そこから理解するようにしていました。例えば予備校本の方が、学説間の難しい議論に踏み込まず、判例・通説を軸に解説しているので理解しやすかったです。合格者からは、早く各科目を1周回すこと(一通り勉強すること)を目標にするべきだと言われていたので、分からないところがあってもあまり立ち止まらずに、次に進むようにしていました。
K 私も(入学後、多少残業を減らしてもらったにもかかわらず)授業時間以外に学習時間を確保するのは実際には大変でした。仕事を辞めてようやく学習時間が確保できるようになりましたが、基本的には自習のために時間を使っていました。ですが、同級生の中には自分で起案したものを先生にチェックして貰っている方がいるのは知っていたので、筑波ローは学生の面倒見の良いところだなという印象を持っていました。また、自習室を24時間使えるのもとても良かったです。ゼミを利用しなかった理由としては、ゼミによっては予め提示された課題を解いてこなければいけないものもあり、また、その課題もレベルが高く、その当時の自分の学力では理解できず、参加することが有意義ではないと思われたからです。自習などで疑問点があったときには、直接、先生に聞くということのほうが自分の学習スタイルに合っていました。ただし、租税法の演習科目がなかったこともあり、租税法のチューターゼミの開催をお願いし、参加しました。
S 時間がなく予習できませんでしたので、講義で学んだことを何度も回すことと忘却曲線(忘れる前に復習すること)を意識すること、例えば、帰宅の途中で復習し、朝、出社する前に再度、復習をしていました。それから、手を広げないことを意識していました。択一は3回(3/3)とも受かっているので、こうした学習のおかげで知識の定着ができていたのかなと思います。しかし、論述については、演習本を解く時間がなかなか確保できなかったこともあってか、司法試験に合格するまでに時間がかかりました。演習授業で自分が当てられてうまく答えられなかった箇所は記憶に残りました。
T 授業の予習・復習そして期末試験対策しか、1、2年次はできていませんでした。働きながらなので、急に仕事との兼ね合いで授業を欠席すると、授業の1回分(1日2コマ分)が飛んでしまうため、次の授業の理解にも影響してなかなか大変でした。その点で授業録画システムが筑波ローにはあるのでこれを見て、キャッチアップできたのは良かったです。私は、1度授業聴いただけでは理解できなかったので、繰り返し録画を見るほかにも、予習を意識してするようにしていました。講義項目などが予め出でいるので、当該科目の体系なり全体像を念頭に置きながらその都度の講義を聞くと理解が深まりました。なので、夏休みなどの空き時間を利用して、次の科目の予習をまとめて行う必要があると感じていました。
 勉強時間が足りない中で学習を進めていかざるを得ないので、職場の理解をできるだけ得ておくことが大事だなと思っています。筑波ローについては、先生が質問にいつでも答えてくれること、24時間自習室が開いていること、仕事を抱えながら勉強するという同じ境遇にいる仲間とゼミで議論できたことがよかったです。私の場合は、仲間と議論することで理解が深まるタイプであったというか、人に説明することでおのずと理解が深まるので、こうした経験があったため、論文について苦手意識が少なく、答案に反映できたのではないかと思います。
 自主ゼミではその日の講義で分からなかったことを議論したり、期末試験の問題を予想したり、演習で出された課題を議論していました。自主ゼミを開くため、教室が利用し易かったのも筑波ローの良かった点です。自主ゼミの問題点・限界として、先生が係わっていないので学生だけの議論でどこまで的確な検討ができたのかについて限界はあるでしょうから、自分の学習にとって自主ゼミの位置づけが明確でないと参加するのは難しいと思います。それでも私は積極的に自主ゼミを活用していました。
 
◆修了後の勉強についてはいかがでしょうか。(以後、SさんとMさんは事情により退席)
W.R. 1回目の試験のほとんど手ごたえがなかったので、試験終了後に再現答案をワンセット作り、7月上旬には次の試験に向けて勉強を始めました。それが今回試験をパスした要因の一つだったのではないかと思います。論文式対策はまず過去問を反復して解くことから始めました。その後、解答例のある演習書のうち自分に合うものを選び、各科目そろえて、これを何度も繰り返し解いていました。
K 12月の期末試験終了後、実質的には筑波ローの正規授業が終わり、それから試験までの約5か月が勝負だと思っていたので、授業がなくなってからも自習室や図書室で勉強していました。そのほかには、筑波ローのすぐ傍にある文京区のスポーツセンターでエアロバイクを漕ぎながら、本や採点実感などを読んだりしていました。
T 私は、修了して1年ちょっと時間がありましたが、修了すると当然に課題などはなく起案する機会がなくなるので、予備校の答案練習会に参加していました。ですが、今思えば、これに参加すること自体が目的になり、勉強効率はあまりよくありませんでした。答案練習会に参加することで手一杯で、本来は必要な過去問の検討がおざなりになってしまい、過去問の検討に十分な時間をかけるべきだったと思います。同期の合格者、修了生たちと自主ゼミを組みこれに参加できたことで、自分に足りないところを明らかにでき、勉強の軌道修正を図ることができただけでなく、メンタル、モチベーションの維持ということからもよかったです。
 
◆今後の進路及び在校生・筑波ローへの進学を考えている方々へのメッセージ
W.R. 職場は変えないので、来年あたりに修習に行けたらと思っています。
在校生へのメッセージですが、アラフォー以上の方については特に、長丁場の司法試験に向けて体力づくりをお勧めします。私は3年目の秋口から毎日腕立て伏せをしていました。筑波ローを受験しようと考えている社会人の方々へのメッセージとして、社会人の方々は限られた時間と情報の中で日々、問題解決を迫られていると思いますが、決められた時間に解答を出すことは、司法試験の勉強にもつながるので、弁護士等になりたいという気持ちが少しでもあるのであれば、社会人だからといって司法試験受験を簡単に諦めたりせず、チャレンジしていただきたいと思います。
K 私は今年12月に司法修習に行く予定です。修習後にどうするかはまだ決めていませんが、今までの経験を生かして起業したいと考えております。筑波ローへの受験希望者へのメッセージですが、筑波ローで知り合った人たちは、(所属する会社等で知り合う人たちと異なり)利害関係がなく、かつ共通の目標を持ちながら、多種多様なバックグラウンドを持っているので、こうした人たちと知り合うことのできる貴重な場でもあります。たしかに法科大学院である以上、司法試験に合格することが第一の目標であることは言うまでもないのでしょう。ですが、個人的には、それ以上に、人生の中でそうなかなかない、こうした貴重な知り合いを得ることができたことの方が何にも勝ることだったのではないかと考えます。こうした経験ができたことを含めて、筑波ローに通ってよかったなと思います。働きながら通うのは大変ですが、ぜひ、筑波ロー入学を目指して頂ければと思います。
T 私は今年の修習には行けないのですが、職場と相談して来年以降に行きたいと思います。司法試験に合格できたのは、筑波ローに入ったからであり、予備試験ルートもありますが、ここで先生の方々や同期の方々と知り合い、また、切磋琢磨するなかで得るものが多かったと思っています。筑波ローへの受験を迷っている社会人の方には、迷うことなく筑波ローの門を叩いてみて欲しいと思います。司法試験合格者の方からの様々なフィードバックをえることで合格できたと思いますので、今度は、自分の番だと思っています。合格した暁には、チューターとして社会人の皆さんとお会いしたいです。
司会 今日は皆さんの貴重な経験を伺うことができたことで、皆さんの後に続こうと思う方々にとって、多くのヒントを得ることができたのではないかと思います。本当に有難うございました。