1988年 早稲田大学政治経済学部経済学科卒業
2002年 一橋大学大学院国際企業戦略研究科修了
2017年 筑波大学法科大学院(既修)入学
2019年 筑波大学法科大学院修了
2019年 司法試験合格
1.法科大学院入学の経緯
大学卒業後、保険会社に勤務していましたが、そろそろ第二のキャリアを考えなければならなくなって、かつて志した法曹に再びチャレンジしようと考え、法科大学院に入学することに決めました。仕事を続けながら司法試験の勉強をするためには、土曜日と夜間開講のみの筑波大学法科大学院がほぼ唯一の選択肢でした。勤務先で法務に長く携わっており、ほとんど独学でしたが予備試験の勉強をしていたことから、既修コースを選択しました。
2.法科大学院での生活
都心に近く便利な立地とはいえ、平日は仕事を終えてからの通学で、また、授業の予習を欠かすことはできず、事前課題も課されることも多かったため、慣れるまでは大変でした。しかし、授業は非常に充実した内容で、また、(自分よりずっと若い)クラスメートとの交流は、会社とは異なり新鮮で、通学はとても楽しかったです。また、自習室や図書館等の学習環境も大変整っており、大いに利用させていただきました。
仕事との両立は容易ではありませんでしたが、法科大学院に通うようになってから、通学時間や学習時間を確保するために、業務を効率的に段取りよく進めることにより注意を払うようになり、却って仕事がはかどるようになりました。それでも勉強時間の確保は難しく、成績はあまり芳しくありませんでしたが、無事に2年間で既修コースを修了することができました。
3.司法試験の勉強方法について
(1)総論
司法試験が終わって振り返ってみると、知識面は法科大学院での講義で十分であったと感じています。私は、ロースクールで生き残って来たからには、一通りの知識は大よそ身についているはずと考え、最終学年の冬頃から本格的に受験勉強を開始するにあたり、復習のために一から基本書や百選を読み直すような勉強はせず、論文過去問と演習問題を解くことを勉強の中心に据えることにしました。
また、論文答案を書く訓練は絶対に必要と思いますが、法科大学院での演習・課題作成・小テスト・期末テスト等で相当量の論文答案作成の練習の機会は得られましたし、時間的に余裕がないのに無理に予備校の答案練習会を受けても消化不良を起こすに違いないと考え、答案練習会には参加しませんでした。その代わり、演習書や論文過去問の答案構成を繰り返し行い、主要な論点については論証のキーワードを覚えるようにしていました(時間があれば、答案練習会には参加すべきと思います)。
短答式試験の勉強については、論文試験の出題範囲と相当程度重なり合っているため、まずは論文の勉強をしっかりやるようにして、直前期に短答固有の勉強を集中的に行いました(私は、予備校の肢別アプリをiPadに入れて、通勤・通学電車の中で解くことしかできませんでしたが、これで何とかなりました)。とにかく論文試験が勝負であり、社会人は勉強時間が圧倒的に足りない中で、短答試験の準備にあまり多くの時間を割くことは得策ではないと思います。
(2)各論
① 演習書と過去問中心の勉強
司法試験の過去問の検討のみですと、旧試験と比較すると問題の蓄積が少ないため、やはり穴が生じると考え、私は、過去問の検討に加えて、演習書を繰り返し解くという方法をとりました。演習書は、定評があり、網羅性があって、解説が詳細であり、できれば参考答案があるものを選択しました。各科目2冊ずつ、メイン(全問を検討)およびサブ(メインにない問題のみ補充的に検討)を選択し、本当にマスターできたと思えるまで、繰り返し回転させました。私が使用した演習書のうち、特に「判例から考える憲法」、「基礎演習行政法」、「ロープラクティス商法」、「ロースクール演習刑事訴訟法」、「論点解析経済法」および受験新報連載の演習教室(刑法)はお勧めで、今年の論文試験を解くうえで、大いに役に立ったと思っています。
論文過去問については、六法だけ参照して答案構成のみ行い、その後に出題趣旨、採点実感、参考答案の順に検討し、最後に出題された概念を定義カードに纏め、出題された条文を条文ノートに纏めておきました。条文ノートとは、ルーズリーフの左半分に重要用語を書いておき、これに対応させて右半分に条文番号を書いておくだけのものですが、これを覚えておくと(何度か見ていると結構覚えられます)、論文試験の最中に条文を素早く引くために大きな効果を発揮しました。
② 復習方法(演習書の場合)について
私の場合、問題を一度解いたくらいではまず身に付きませんでしたので、本当にマスターしたと思えるまで、答案構成と解説・参考答案の読み込みを繰り返しました。私は、メインの演習書については、科目によりますが、5回~7回復習のために廻しています。復習のサイクルは、当日、問題を解いたら、翌日に同じ問題を解き、1週間後にもう一度同じ問題を解き、さらに2週間後にまた解いて、1か月後にまた解く、というものです。この復習法は、池谷裕二『受験脳の作り方 脳科学で考える効率的学習法』(新潮文庫、2011年)に詳しい説明がありますので、ご興味があれば参照してみてください(他にもいろいろと科学的(?)な勉強ノウハウが解説されています)。但し、この方法は、日を追うごとに復習のノルマが膨れ上がるという難点がありますが、復習のサイクルはそれほど厳密に守る必要はないと思いますので、私は週末等に帳尻を合わせるようにしていました。
復習に関して、もう一つ重要と思うことは、毎日、公法・民事法・刑事法からそれぞれ1科目(1問)ずつ解くことです(週末はこの倍+選択科目)。この方法は、8科目全てを常に同時並行的に勉強することになりますので、科目の穴が生じにくく、かつ勉強したことを忘れにくい、気分転換になるなど、優れた方法であると思います。演習書は1問毎に区切りがあって、このような勉強方法にはぴったりでした。
次に、良さそうな演習書が次々に出版されますが、むやみに手を広げると結局あやふやな知識しか身につかず、本番では使えないことになりかねないと思いますので、これと一旦決めた演習書を繰り返し解くことが大事ではないかと思います。
私のとった勉強方法は、ひたすら演習書と過去問を復習のために廻しつつ、分からないときだけ基本書を参照するというものでしたが、今年の司法試験では、ほとんどの科目でこの方法でも通用すると感じたものの、民事訴訟法については歯が立たず、酷い結果となってしまいました。演習を中心に据えるという勉強法は間違っていないと考えていますが、やはり穴を作らないように、基本書や百選もバランス良く勉強すべきと反省しました。また、私は実際に受験生が本試験や答案練習会で書いた答案を検討することをほとんどしないまま受験を終えてしまいましたが、限られた時間の中で現実的に作成可能な答案のイメージ作りをしておけば良かったと今は思っています。
③ 勉強のルーティーン化と集中
私は、司法試験合格は、「生産性 × 勉強時間 + 運」の結果であると思います。そこで、上記①・②の方法により生産性を高めるとともに、勉強を習慣化してとにかく少しでも多く勉強時間を確保することが大事と思います。私は、遅くまでの残業や飲み会その他の用事がない限り、法科大学院の自習室に1時間でもいいからとにかく出かけて、半ば強制的に勉強をする習慣を身に着け、維持するようにしていました(居眠りすることも少なくありませんでしたが)。法科大学院の授業がない日は、平均して毎日2時間、週末は5時間は勉強時間を確保し、上記のノルマ(平日は3分野で3問)を消化するようにしていました。
次に、集中を保つためには、目先の目標を設定することが有効であり、最終学年時の予備試験の受験をお勧めします。司法試験の1年前に一旦、実力をピークまで持って行くことは、本番の良いシミュレーションとなりますし、論文まで進めば、試験委員の採点により自分の実力や欠点を知ることができ、その後の勉強の指針にもなります。
また、勉強に集中するためには、仕事もしっかりと頑張ることが必要と思います。そうすれば、余計なトラブルは起こりにくくなりますし、周囲の信頼を築くことができ、試験のための休暇取得が比較的容易になり、何より精神的に安定し勉強に集中することができます。簡単なことではありませんが、社会人受験生にとって仕事との両立は宿命ですから、この点には特に留意しました。
運についてはどうすることもできませんが、今年は試験直前に10連休があったことが社会人受験生にとっては幸運でした(私は毎日大学に来て、自主勉強仲間と共に論文の答案練習をしていました)。
4.おわりに
以上、私のとった勉強方法について述べましたが、人それぞれ自分にあった勉強方法を工夫し、無駄は
ないか、合格のために足りないものは何か常に考え、取り組んで行くことが大切と思います。昼間のロースクール生は、1日10時間くらい勉強している(と聞いている)ところ、1日平均2~3時間しか勉強できない社会人受験生(しかも昔より記憶力は衰えている)が、無駄な勉強の仕方をしていて太刀打ちできる筈はないと思います。私たち社会人受験生は、試験勉強と割り切って、合格のために必要なことに絞りつつ、辛くても今の自分に必要なことを避けずにしっかりと取り組みましょう。必死で努力すれば、きっと道が開けると信じます。
これから司法試験を受験される方のご健闘をお祈りいたします。
また、お世話になった先生方、同級生の皆様(とりわけ自主勉強会仲間)、およびいつも励ましてくれ
た大切な人に心から感謝申し上げます。