平野 敬さん

KC3S0005

  • 慶應義塾大学法学部法律学科卒
  • 同大学大学院法学研究科前期博士課程(公法学専攻)修了
  • Trinity College Dublin にて LL.M. 取得
  • 筑波大学法科大学院 平成22年入学(6期生)
  • 平成25年司法試験合格
  • 日立製作所、Accenture Japanを経て現在司法修習中

 1  私が筑波に入学した経緯
(1) 法科大学院入学の動機
ア  背景
 私は2003年に他大学の法学部法律学科を卒業し,その後に修士課程に進んで,2005年から社会人生活を始めました。よって分類上は既修社会人ということになりますが,在学中の専攻は国際法であり,国内法は素人も同然でした。過去に司法試験を志したこともありません。
 社会人生活においては,1社目は情報システムの営業職,2社目では同じく情報システム系の契約管理職に携わりました。いずれの業務も法律と接点がありますが,法務を専門的に扱っていたわけではありません。
イ  なぜ司法試験か
 法科大学院への入学を考えた当時,私は20代の終わりで,今後のキャリア形成について悩む時期でした。来るべき人生の後半に備えて,どのようなスキルセットを構築していくべきか。漫然と会社勤めをしているだけでは,遠からず限界が来ると考えました。
 私の強みは情報システムと英語であり,国際法専門とはいえ法律についても最低限の素養はあります。なので,この3つを柱にして自己のスキルセットを確立しようと考え,30代前半の時間を使って最も弱い法律を集中的に鍛えることにしました。そして,やるからには目標を立てようと思い,司法試験への挑戦を決めました。
(2) 筑波大学の魅力
私が入学先を検討した際,筑波を選ぶ決め手となったのは以下3点でした。
ア  夜間であること
 新司法試験がスタートしたのは2005年のことです。当初の構想では,法科大学院を修了した者の7-8割程度が試験を通過し,法曹になれるものとされていました。しかし,ご存知のように実際の合格率は低迷し,私が法科大学院を受験した2009年当時においては「法科大学院を修了したからといって司法試験に合格するとは限らない」という認識が一般的となっていました。2013年現在,状況はなお一層厳しくなりつつあります。
したがって,社会人で法曹を志す者にとって,現在の職を辞して昼間の法科大学院へ通うという選択は,非常にリスキーな賭けとならざるを得ません。とりわけ,配偶者や親・子の扶養介護を考えなければならない人にとっては,合否いずれにせよ数年間のキャリア中断は大きな痛手となることでしょう。
この点,夜間の法科大学院であれば,現在の職を維持しつつ勉強することができ,司法試験のギャンブル性を低減することができます。
イ  通学のしやすさ
 社会人学生は毎晩,仕事を終えてすぐ法科大学院に移動し,あわただしく講義に駆けつける生活を送ることになります。よって,職場からキャンパスまでのアクセスの良さが死活的に重要です。筑波は都内で勤務する多くの人にとって通学しやすい立地と言えましょう。
ウ  学費負担の少なさ
 一般に法科大学院は学費が高く,年間200万円を超えるものも少なくありません。加えて教科書代等の負担があり,また司法試験に合格した後は司法修習生としての無収入期間を覚悟しなければなりません。2013年現在,筑波は関東唯一の国立夜間法科大学院であり,学費が比較的低廉に抑えられています。このため経済的に大きなアドバンテージがあります。

2  筑波大学での学生生活
筑波への入学を検討されている方のために,どんな学生生活が待っているのかをざっと描写してみます。
(1) 一週間のイメージ
ア  平日について(火~金)
 私の職場はフレックスが利用可能でしたので,私は朝8時に出社して17時まで勤務し,その後法科大学院に移動して18時から21時まで授業を受けるという生活を送っていました。講義後は,その日の授業の不明点を先生に質問したり,23時すぎまで法曹専攻専用の自習室に残り,翌日の講義について予習したりしました。
勉強後は疲労困憊して帰る気力もなくなりますので,少しでも帰路を楽にするため茗荷谷にワンルームマンションを借りました。
職場で片付けきれない仕事が発生しても残業する時間的余裕が一切ありませんので,原則として講義のない日(月曜)に処理することとし,それでも間に合わないものについては上司や同僚と相談して負荷量を調整していただきました。
イ  週末について
 土曜は朝から夕方まで授業があり,日曜は休みです。とはいえ,夜間の学生に本当の意味での「休み」はありません。授業のない日には,前週の復習や司法試験に向けた自習を進めました。昼間の学生に比べて圧倒的に学習時間が足りませんので,土日で稼がなければなりません。
 もっとも,あまり根を詰めすぎても自分自身が焼き切れてしまいますので,適宜息抜きを考える必要もあります。私は時間を作って散歩したり泳いだりして(法科大学院の隣に区民プールがあります),頭と体のバランスを整えるようにしていました。
(2) ともに戦う仲間
 筑波の学生は年齢,背景とも多様です。20代の若々しい方もいれば50代以上の人生経験豊富な方もおられ,公務員・会社員・自営業者など業界も多岐に渡ります。一般に,昼間の法科大学院では学部後すぐに入学してきた新卒者が多数派を占めることになりますが,筑波では多数派というものが存在しません。そのため,筑波でなければ得られなかったであろう多彩な人脈に触れることができます。
 筑波の学生は基本的に,学費を自分自身の財布から出していますから,学習に向かうモチベーションが高いのも特徴です。自主ゼミを組んで勉強している学生の姿をあちこちで目にすることができます。
(3) 授業とチューターゼミ
 こちらが社会人で余裕がないからといって,多くの先生方は授業に手加減をしてくれません。綿密な予習が要求される科目も多く,定期試験では容赦なくD(不可)がつきます。その結果,必修科目を落として進級できなくなる学生も毎年のように生じます。私も,上記のとおり既習とはいえ国内法がさっぱりでしたので,1・2年次は内心泣きそうになりながら授業に臨んでいました。
 ただし,学生の最終目標が司法試験である以上,授業を甘くしても意味はなく,厳しいことはむしろ思いやりと考えられるかもしれません。多くの先生は夜遅くまで研究室に残り,学生の質問を受け付けてくださいますし,メールでの質問にも丁寧に応対してくださいます。意欲ある人にとっては伸びやすい環境と言えるでしょう。
また授業以外に,筑波修了生や実務家が主催するチューターゼミも盛んに開かれています。私はなるべくこれらのゼミにも参加して,ご指導をいただくようにしました。

3  結びに代えて,これから入学される方へ
法曹への道を探している社会人にとって,筑波大学法科大学院は最良の選択肢のひとつとなりうると思います。チューターゼミ等の機会で,皆さんと茗荷谷でお会いできることを楽しみにしております。