菊川正祥さん

1.はじめに
私は、一橋大学法学部を卒業後、ソニー株式会社の法務部にて勤務し、勤続6年目にあたる2014年に本学の未修コースに入学しました。2017年3月に修了し、同年5月の司法試験に合格することができました。
昨今、社内外で法科大学院修了生や有資格者が増加傾向にある中で、私が今後法務のキャリアを活かす上では、ただ経験を重ねるだけではなく、同等の知識レベルも備える必要があるのではないかと思い、挑戦することにしました。ただ、必ずしも当初から弁護士資格を取ることを目標としていたわけではなく、まずは体系的に勉強をし直すつもりで入学しました。
学部時代は決して法学に熱心でなく、また就職後も体系的に法律の勉強をする機会はなかったため、本学の既習者試験には不合格でした。入学時は、純粋未修の方よりは多少馴染みがある、という程度の知識レベルだったと思います。

2.入学後
(1)授業について
基本的に、火曜~金曜の夜及び土曜の日中は授業があります。未修コースの1年目は比較的進行が緩やかなので、この時期は、授業・予習復習・定期試験前の対策という一連の流れにうまく乗ることを心がけました。2年目からは科目も増えてきますが、1年目に学修したことの繰り返しという面もあり、カリキュラムに従って、何度も各科目重ね塗りをして学修レベルを高めていくことが出来るようになっていました。
(2)定期試験について
私は、定期試験の成績を重視していました。ひとつは、モチベーション維持のため。また、筑波での成績と司法試験の結果には相関関係があると聞いたため。そして、司法試験の採点者と基本的に同じ観点から採点される以上、そこで良い評価が出ないのに本番で良い結果が出ることはないと考えていたためです。良い成績を続けて取ることで周囲からの見方・期待も変わり、さらに続けようというプレッシャーを自分に与えることもできました。
(3)ゼミについて
私は、各科目の先生方やチューターの方々にしつこくお願いをして、ゼミを組み、アウトプットの訓練をしていました。授業・試験のみではアウトプットの分量としてはどうしても不足します。お忙しい方々にボランティアで時間を取ってもらうという意識と、ゼミの仲間の手厳しい批判を受けるという意識を持って臨むことで、自然と高いレベルに至ることができたと思います。いずれの先生方・チューターの方々も、夜間や土日であるにもかかわらず最大限のご協力をしてくださり、このような環境なしに良い結果が出ることはなかったと思っています。
(4)仕事について
特に1年目は業務も忙しく、かつ学修範囲が膨大であることに気付き、このまま業務をしていてはとても合格レベルに至らないのではないかと思い、退職や休職をすることも考え、先生方をはじめ周囲にも相談しました。しかし、結果的には、試験前の約1か月半の休暇を取得したほか、職務を継続することができました。
これは、会社の柔軟な勤務制度や、職場の上司・同僚の理解やサポートが得られる環境にあったという幸運によるものです。必ずしも全ての学生がそのような環境にはないと思いますが、個人的には、筑波の学生の方々にはできる限り仕事を継続されることをお勧めします。退職すると一般の学生と同じ立場になり、経済的・精神的に苦しくなってしまうこと(私は、夏季休暇中にひたすら学校に通っただけで参ってしまい、意外と業務をしていることが心のバランス維持に役立っていることに気づきました)。また、業務においても、例えば論理性・説得力を意識して文章等を書くことでも答案作成能力を向上させることができ、その積み重ねが一般の学生との違いを生み出せるように思うためです。両立はもちろん大変ですが、合格後にこそ、そのユニークさが生きるのではないかと期待しています。

3.司法試験について
(1)予備試験
私は、2年生時の予備試験は見送り、3年生の予備試験を受験しました。3年生の場合、合格により受験資格が得られることに意味はありませんが、本試験と似た環境で起案し、採点され、細かく成績を出してくれるのですから、是非受けたほうが良いと思います。
私の場合は、最終合格が自信になったことに加えて、科目別の成績に差があると知り、その後注力すべき領域が分かったことが役に立ちました。
(2)本試験
上述の通り、私は直前の4月から、職場に無理をお願いして休暇を取得しました。毎年そのような無理を言えるわけはなく、これで不合格となれば立場がないと思いながらも、1回目の受験が最大のチャンスと信じて時間をかけることにしました。業務の心配をせずに集中できる期間を取れるよう、ある程度の休暇が取れるとよいと思います。
本番では、どれだけ準備をしていても、記憶が怪しい部分や、聞いたこともないことが問われるものだと思います。とにかく諦めずに回答を書ききるべきとよく言われますが、振り返るとまさにその通りだと思います。私の場合、前半の公法系・民事系の手応えが乏しく、中日は辛い精神状態でしたが、その中でも唸りながら刑事系の準備をしたところ、その一部が本番でも聞かれたというツキもありました。

4.これから挑戦される方へ
私は、幸運にも一回の試験で合格することができました。合格で人生が一変するという時代でもありませんが、少なくとも、色々な選択肢が目の前に開けることは事実だと思います。私と同じように企業法務で働く方だけでなく、違う分野での職務経験が豊富な方こそ法曹資格を得ることで更に貴重な人材へステップアップできるように感じます。是非そのような方にも本学で挑戦して頂ければと思っています。法科大学院は司法試験のためだけにあるものではありませんが、少なくとも必要な環境は筑波大学に揃っており、それを最大限活用することで、どのような経歴の方であっても良い結果を得ることは十分可能と思います。
この記事を読んでくださっている方には、入学を迷われている方もおられるかと思います。私自身、これが良い選択なのかの確信は全くありませんでしたが、そのような確信があるほうが稀であるからやってみればいい、という言葉で決心したものです。私の経験が、少しでも参考になれば幸いです。

最後に、私の在学中、懇切丁寧に指導下さった先生方・チューターの皆様、一貫してサポートくださった職場の皆様、そして応援してくれた家族・友人に、この場を借りて感謝申し上げるとともに、現在在学中または今後入学される皆様の努力が良い結果に結びつくことを心からお祈りいたします。