平成28年度修了生 R.S.さん

1 はじめに 
私は2013年に筑波大学法科大学院の未修コースに入学しました。出産・育児のため一時休学しましたが,2017年3月に同過程を修了,同年5月の司法試験に合格することができました。決して要領が良いわけでも,並外れて体力や根性があるわけでもない私が合格できたのは,「周囲の人たちに恵まれた」という幸運の一言に尽きます。
筑波大学法科大学院は,様々なバックグラウンドを持った学生が集まっており,司法試験合格という共通の目標を持つ戦友として,年齢や立場を超えて協力しあっています。妊娠・出産という人生の転換期を迎えながら,勉強を続けることに迷いが生じなかったのは,大学院へ来れば何かしら困難な状況を抱えながらも前を向いて頑張っている方たちの姿があったからでした。在学中はコンスタントに勉強できたわけではありませんが,小規模校ならではのきめ細かいサポートと,クラスメイトたちの優秀さに刺激を受けながら過ごした日々こそが,合格へ導いてくれたと思っています。

2 LSとの関わり
(1)休学まで
1年時は,授業を中心に該当箇所をしっかり理解するよう努めました。そして,期末試験で出た問題や授業で扱った問題を書き直して何度も添削してもらうことで,法的三段論法を習得するよう心掛けました。
妊娠後は,つわりや貧血に悩まされ,さらには切迫早産で3週間ほど入院を余儀なくされましたが,2年生の夏に無事元気な子を出産し,どっぷり子育て生活に入ります。当初は1年間の休学を予定していたものの,赤ちゃんとの生活がはじまってすぐに,復学しても授業のために毎日家を空けるのは絶対に無理だと悟りました。そこで,残りの単位を2年間かけてゆっくり履修して2017年に修了できるよう,予定を早めて復学し,週1~3日ペースでの通学を再開しました。
(2)復学後
子どもが保育園に入ってからは仕事も復帰し,育児,家事,仕事,勉強を夢中でこなしました。しかし,すべてをバランスよく両立などできるはずもなく,たくさんの失敗や自己嫌悪を繰り返しながら,ひとつひとつ手探りで模索する毎日でした。そのため,勉強は後回しになり,授業以外ではまったく勉強できない期間が続きました。ただ,毎日ではなくとも継続的に授業に出席することで,授業時間の150分だけは勉強に没頭し,司法試験から完全に離れることなく過ごすことができたので,モチベーション維持という意味でとてもよかったと思います。

3 受験勉強
(1)失敗
 2016年10月から本格的に受験勉強を開始しました。短答式試験,論文試験の過去問検討を開始すると同時に,授業を通して理解のあやふやな箇所や忘れている箇所を見つけては,集中的にテキストを読むなどして体系的な記憶喚起に努めました。
もっとも,まとまった勉強時間がとれるのは,子どもを寝かしつけて家事を一通り終わらせた夜10時頃から2時,3時まで。睡眠時間が3~4時間となってしまい,1か月で体調を崩してしまいます。受験勉強開始早々,体調管理をしながらまとまった勉強時間を確保することの難しさに直面して,心が折れかけました。
(2)軌道修正
このままではすべてが中途半端になると思い,この時期に徹底的に自己分析をしました。
他の多くの社会人受験生と同じように,私もこれまでの人生経験で培ってしまった思考や生活習慣の「癖」がありました。そのひとつが,「完璧主義」であることです。現実を直視できていない自分の甘さを認識し,できもしない完璧な「理想像」「理想的計画」に振り回されることをやめ,自分にはできないことを見極めて「やらないこと」を決める。その上で,今この瞬間できることを全力でやる。その姿勢を貫いたことが,受験勉強を継続する大きな鍵となりました。それは,1日24時間しかないなかで,自分が何を優先して,何をあきらめるべきかという生活全般に関することのみならず,勉強面についてもあてはまりました。
(3)勉強スタイルの確立
現実的に受験勉強にかけられる時間,エネルギーが少ないなかで,私の能力で,今年合格するためにできることは何か。考え抜いた結果たどり着いたのが,隙間時間に,過去問に出てきた分野とその周辺を片っ端から頭に叩き込んでゆく,というスタイルでした。
受験勉強を継続する以上,睡眠時間はしっかりとって無理はしない。とはいえ,起きている時間内に勉強しなければ勉強は進まないことから,隙間時間を徹底的に活用することにしたのです。時間や空間といった環境的制約にこだわらず,体系的な勉強をするという発想も捨てました。また,本番まで予備校の答練や模試などを受ける余裕もなかったので,授業で扱う演習問題や期末試験の答案を何度も書き直して先生に添削してもらうことで,アウトプットの練習に代えました。
このように,自分にあった勉強スタイルを確立して日常生活に組み入れたことで,極端に勉強時間が少ないことを過度なストレスに感じることなく,受験日まで走り抜けることができました。1日12時間程度勉強するのが当たり前の司法試験受験生においては,決して『王道』のスタイルではありませんでしたし,それゆえの失敗も数多くあります。しかし,平日は分刻みで動き,不可避的な突発事項が多すぎて勉強計画すら立てられなかった私が合格するには,唯一の方法であったと思います。

4 社会人で司法試験を目指す皆様へ
専業受験生であっても難関といわれる試験に,社会人になってから挑むということは,至難の業に思えるかもしれません。しかし,社会人大学院である筑波大学法科大学院には,「法曹資格を取りたい」という情熱を持つ者をサポートする,現実的で心強い体制と空気があるように思います。司法試験合格は,法曹の担い手となるほんの入り口にすぎませんが,必ず通過しなければならない道でもあります。法曹に興味をもたれた社会人の方が,一人でも多く合格されますよう,心から応援しています。