2018年11月17日 東京キャンパスで実施
出席者:Iさん、Fさん、Oさん、Mさん
司会:田村陽子教授
司会 | 本日はお忙しい中お越しいただきまして、ありがとうございます。それでは、自己紹介からお願いいたします。 |
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I | 私は、教育学部出身で、未修者として入学しました。2018年に本学を修了し、司法試験には修了後1回目の受験で合格しました。 |
F | 私は、大学では心理学を学んでいましたが、既修者として入学しました。Iさんと同じく2018年に本学を修了し、修了後1回目の受験で合格しました。 |
O | 私は、法学部出身ですが、私が入学した当時は既修者入試がなかったので、未修者として入学しました。2016年に本学を修了し、司法試験には修了後3回目の受験で合格しました。 |
M | 私は、理系の出身で、未修として入学しました。2014年に本学を修了し、司法試験には修了後5回目の受験で合格しました。 |
司会 | 本日はよろしくお願い申し上げます。では、議題に沿って進めたいと思います。 |
1.入学までの経緯、入学の動機など | |
司会 | まず、入学時の仕事と法律との関わり、入学の動機、それに対する周囲の反応や職場の理解を得た方法などを、簡単にお願いします。 |
I | 私は、もともと国会議員の政策担当秘書をやっていましたので、立法という観点では、法律に関わりがありました。その後、民間のコンサルティング会社に転職し、政策渉外コンサルティングという、ビジネスと立法とを繋ぐ仕事をしています。その中で、現行法の解釈運用の知識が必要となる場面も多く、スキルアップの必要性を感じたことから、法科大学院への入学を決意しました。それほど大きい会社ではなく、経営者の理解もありましたので、入学できました。 |
F | 私は、不動産関係の仕事をしています。店舗をゼロから作っていく仕事をしておりましたので、許認可関係の法令を扱うことはありましたが、かといって、高度な法知識を必要とする仕事ではありませんでした。 |
司会 | しかし、法科大学院を目指されたわけですよね。それは何故ですか。 |
F | サラリーマンをやっていると、自分の思いとは違うところで仕事をさせられたり、場合によっては人生が左右されることもあります。将来的に独立して生きる柱となるものが欲しいと考えたときに、司法試験の受験が選択肢となるのではないか、と考えるに至りました。そこで、法科大学院への入学を決意しました。職場には、最終段階まで通学していることを言っていなかったのですが、時間内で仕事を終わらせるなどして、仕事に支障がないように、自分なりに配慮していました。 |
I | 私も、職場の理解を得るというよりも、自分で仕事のやり方を工夫して、支障が出ないようにしていました。例えば、平日登校するために会社を出る時間には、ヨーロッパはちょうど朝なので、その頃にヨーロッパの拠点向けの仕事を向こうのオフィスに送っておいて、それが返ってくるのが授業終了後ぐらいになるので、図書館や帰りの電車の中でパソコンを開いてその仕事を処理し、またヨーロッパの拠点に戻し、翌朝オフィスで、再度戻ってきた仕事を処理するというようなことをやっていました。また授業後夜10時ぐらいから欧米との電話会議に参加することもありました。 |
司会 | なるほど。時差を利用して仕事の効率化を図られていたわけですね。ほかの方は、如何ですか。 |
O | 私は法律事務所勤務で、もともと法律との関わりがある仕事をしていました。ボスの弁護士と2人の職場で、理解もありました。ただ、1回大きな病気を経験したときに、このままパラリーガルとしてやっていくよりも、自分の力で人生を切り開いていくために、司法試験を受験するということが選択肢となるのではないか、と考えるに至りました。そこで、働きながら通える法科大学院を探している中で、最終的に筑波大学への入学を希望しました。 |
M | 私は、企業の知的財産部門に所属し、日々、特許に関係する仕事をしています。最も関わりがあるのは特許法ですが、契約に関する法律なども扱う中で分からないことも多く、それらを勉強するために、せっかくなので法科大学院に入学しようと考えるに至りました。私の場合は、あらかじめ言っておかないと定時では帰りづらい職場なので、「定時までしか仕事できません」と宣言しておいて、それまでに仕事を回してもらったり、間に合わない場合は次の日にしてもらうなど、配慮してもらっていました。その意味で、周囲の理解はあったと思います。 |
司会 | ありがとうございます。社会人大学院ということで、みなさん多様なバックグラウンドをもっていらっしゃるということが分かりました。 |
2.法律学の学修について、法科大学院の学修環境など |
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司会 | では次に、特に未修者の方が、法律学の学修にどのように馴染んでいったかということ、また、入学後の本学の学修環境がどうだったか、司法試験対策に関することも含めて、お願いします。 |
I | 実は、私は、10年程前に司法試験の受験経験があり、純粋未修者というわけではありません。ですので、法律の基本的な考え方みたいなものは身についていたのかも知れません。ただ、それからだいぶ時間が経っていて、その間に法改正があったり、重要な判例がいくつも出されたりしていたので、ゼロからのスタートのつもりで、学修を始めました。今思うと、以前勉強していた時は、基本的事項の着実かつ体系的な理解や習得に課題があったように思います。筑波大学の法科大学院に入学して、授業で、先生方が知識を整理されたレジュメが用意され、カリキュラムが着実に進んでいく中で、自己流の勉強では抜けていた部分の理解や体系的な整理が進んだかと思います。他にも、例えば、1年次は、期末試験期間が小刻みに設定されているので、仕事との調整という意味では大変でしたが、今振り返ってみると、定期試験が、インプットした知識をまとめる機会になったりアウトプットの練習になったりして、良かったのではないかと思います。また、3年次の総合演習科目なども、アウトプットやフィードバックの機会という意味で、とても役に立ちました。それらのことが、結果として司法試験対策にもなっていたのではないかと思います。 |
F | 私は、予備校で司法試験科目については一通り学んだ上で、既修者として、法科大学院に入学しました。ですので、法科大学院では、これまで学んで来なかった、自分が知らない知識を身に付けようという気持ちで、授業に臨んでいました。基本的には、予習よりも復習に力を入れていて、教室で難しい質問をされた時には、それに対応することも、「現場で理屈を捻り出す」トレーニングだと考えていました。 |
司会 | なるほど。ありがとうございます。他の方は如何でしょうか。 |
O | 私は法学部出身ですが、卒業してからだいぶ時間が経っていますし、法律事務所に勤務しているとはいえ、それと法科大学院で学ぶ内容が一致するわけでもありません。それまで法律に触れていたとはいえ、入学時は、純粋未修に近い状態だったと思います。1年次から、短期間で集中的に、各科目の内容を一通り教わるわけですが、知識が不足しているのを自覚していたので、毎回、充分に予習をして授業に臨むようにしていました。その反面、復習に充てる時間はなく、定期試験前にレジュメを読み直すくらいだったことを覚えています。2年次まではそんな感じで、3年次になって、総合演習科目でアウトプットの機会が訪れて、ようやく司法試験が迫っていることを意識するようになったと思います。その意味では、今思うと、ちょっと始動が遅かったな、と思います。総合演習科目については、当時のレジュメを修了後も役立てたりしていたので、とても勉強になったと思います。 |
M | 私は、法律については、特許のこと以外は何も知らないという純粋未修の状態で入学しました。ですので、皆さんとはちょっと違うのかも知れませんが、入学時は、「結構、厳しいカリキュラムだな」という印象でした。入学前には、仕事に影響させないこと、家庭を大事にすること、という2本柱を大事にしながら勉強することを決めていました。当時は、新幹線通勤をしていて、家で勉強する時間はほとんどなかったです。その代わりに、通勤時間や昼休みを活用して勉強していたのですが、それでも充分な時間がとれないような状況でした。ですので、在学中は、修了するために単位を落とさないこと、再試験を回避することで精一杯だった、というのが正直なところです。留年してしまうと、家庭からの援助が途絶えてしまうことになりかねませんから(笑)。司法試験対策については、修了した後になんとかしよう、という考え方でした。 |
司会 | 勉強時間の確保については、みなさん色々と工夫されているんですね。 |
3.合格後の進路、法曹資格の活用法など | |
司会 | では次に、今後の進路や、そこで法曹資格をどう使っていくのかについて、お願いします。 |
I | 私は、今年司法修習に行きますが、会社は休職にして、修習後は復職する予定です。将来的には、今の政策渉外コンサルティングの仕事と弁護士としてのキャリアを、どこかで「連結」させることを目指しています。もっとも、まず弁護士実務が一人前に出来るようにならないと、その先の「連結」も見えてきません。ですので、復職後は、弁護士登録をして弁護士実務をやりながら、今の仕事もこなしていくという、両者が両立するようなやり方を模索しています。 |
司会 | 今までの仕事を活かしつつ、法曹資格も活用しようという、まさに、社会人ならではの考え方ですね。そうすると、一旦は、どこかの法律事務所に所属して経験を積む、というようなことも考えているのですか。 |
I | そうですね。経験が積めて、かつ柔軟に仕事をさせてもらえるところにお願いしたいと考えています。 |
司会 | 法曹資格の取得によって生活が変わるのではなく、今の仕事に統合する形で、法曹資格を活用するというスタイルですね。 |
I | はい。政策渉外コンサルティングの仕事では、例えば、ビジネスをやっていくうえで障壁となる規制があった場合に、規制に沿うようにビジネスのモデル自体の見直しを検討することもあれば、場合によっては規制や制度自体を変えることを考えることもあります。そのためには、立法や行政の側と粘り強く交渉し、代替する現実的な制度を提案していく必要がありますが、その際に、法曹としての知識や経験が役に立つと思います。 |
司会 | なるほど。他の方は如何でしょうか。 |
F | 私も、会社は休職にして修習に行き、その後は復職する予定です。私の会社には法務部があるので、復職後は、法務担当として仕事を続けることを考えています。ただ、もともと、司法試験を受験しようと思った動機が、独立して生きる柱となるものが欲しいということでしたので、あくまでも将来的な展望ではありますが、いずれは独立することも考えています。 |
O | 私は、修習後は今の事務所を出て、新しい事務所に就職すべく、現在就職活動中です。あまり大人数のところではなく、ある程度人数が少ないところを希望しています。年齢的なこともあって苦戦していますので、良いところがあったら、紹介して下さい(笑)。そこで経験を積んだ上で、将来的に、独立して自分の事務所を持つのか、また他の職場を探すのかは、まだ考えていません。 |
M | 私は、今年は修習に行かずに、来年ぐらいに、仕事が落ち着いたところで修習に行こうと考えています。今の仕事が気に入っていて、仕事に活かすために法律学を勉強し始めたということがあるので、修習後も今の仕事を続けようと思っています。 |
司会 | ありがとうございます。合格後の進路も、それぞれ多様ということが分かりました。 |
4.後輩へのメッセージ、法科大学院に望むことなど | |
司会 | では最後に、後輩院生や受験を検討されている方へのメッセージをお願いします。 |
I | 社会人が、法科大学院に来るのを「やめる理由」とか、司法試験への勉強を「やらない理由」というのは、おそらく無数にあるのだと思います。冷静に考えれば、やめた方が良いのかも知れません。しかし、司法試験に向けた勉強というのは、自分の納得のためにやるもので、ある意味、「自分の人生に向き合う作業」なのではないかと思います。ですので、それでもやる気があるのであれば、司法試験を目指してみても良いのではないでしょうか。筑波大学の法科大学院は、先生方のサポートも充実していて、そのための勉強をする場として最適と思いますので、是非、入学を検討していただきたいと思います。 |
司会 | ありがとうございます。筑波大学の法科大学院に対して望むことなどがあれば、それもお願いします。 |
I | そうですね。敢えていえば、事務的な面で、なお改善点があるのではないかと思います。例えば、インターネット受講などで、より効率的なシステムがあるのではないかと思うことがあります。 |
司会 | なかなか我々では気が付かないところですね。色々とアイデアを頂きたいと思います。 |
O | 私も、筑波大学の法科大学院では、とても良い環境で勉強させていただいたと感謝しています。授業ももちろんですが、例えば、チューターゼミの内容が充実していることも、魅力でした。ただ、授業やチューターゼミが、在学生だけではなく、修了生にも開放されていれば、修了後勉強を続けていく中で、勉強の進度を測るペースメーカーとして役立つのではないかと考えたことがあります。 |
司会 | そうですね。ご指摘の点は、なかなか制度的に難しいところがありますが、いずれにしても、修了生へのサポートをどのようにしていくかは、今後の課題です。他の方は如何ですか。 |
F | 自分の経験を踏まえて申し上げますと、社会人になってある程度仕事を続けていくと嫌なことも色々あって、「資格でもとって独立したいな」という、ある意味ネガティブな動機で司法試験の受験を検討している方もいらっしゃるかと思います。ただ、実際にそのための勉強をしようと、一歩を踏み出すことができる方は、その中の一部ではないかと思います。司法試験というのは、なんとなく受けて合格するような試験ではなくて、そんな気持ちでは、たぶん法科大学院への入学も覚束ないのではないかと思います。ですので、自分の人生を自分で決めていくために、一歩を踏み出すことは、とても大切なことだと思います。迷っていらっしゃる方がいたら、筑波大学の法科大学院の門を叩いてみることをお勧めします。自分は法律の勉強に向いていないのではないか、と思う方もいらっしゃるかも知れませんが、今の司法試験は、年間1,500人が合格する試験で、トレーニング次第でなんとかなる試験だと思いますので、是非とも挑戦してみて下さい。 |
M | 私の場合は、成績が必ずしも良いとはいえなくて、在学時は、留年せずに修了することが目標でした。それでも合格できたわけですから、後輩院生の皆さんには、「成績が悪くても諦めずに頑張って欲しい」と言いたいですね。 |
司会 | ありがとうございます。後輩院生の皆さんも、勇気づけられたのではないでしょうか。 |
司会 | 本日はお忙しいところ、4人の合格者の方にご参加いただき、貴重なお話をうかがうことができました。どうもありがとうございました。 |