国立情報学研究所教授 佐藤健さんインタビュー
国立情報学研究所教授 佐藤健さん 2016年3月修了 |
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森田憲右専攻長 |
本日は、本学第10期生の佐藤さんにお越しいただいています。まずは、佐藤さんの方から、現在のお仕事についてお話ししていただけますでしょうか。 |
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佐藤健氏 |
私は、現在、国立情報学研究所というところで、AI(人工知能)に関する理論的な基礎を与える研究や、それに基づいた実装や応用の研究を行っています。特に人間の推論の機械化について興味があり、非単調推論、仮説推論や機械学習に関する理論的基礎、応用、ならびに実装について研究しています。 |
森田 |
そうすると、AIの専門家ということになりますね。ところで、佐藤さんは、筑波大学法科大学院が法学既修者を受け入れた最初の年に入学されました。入学しようと考えるに至った動機について、教えて下さい。 |
佐藤 |
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森田 |
研究していたテーマが法科大学院入学の動機ということですが、研究活動と法科大学院での勉強との両立という面では、如何でしたか。 |
佐藤 |
私の場合はすごく特殊で、研究テーマとして法律を扱っていますので、研究中も法律の知識が必要となります。ですので、仕事自体が法科大学院での勉強のための知識の源泉となっていたというか、勉強のために時間を使えた、という面があると思います。その意味では、他の皆さんよりも、アドバンテージがあったと思います。 |
田村陽子教授 |
理系の研究者としてお仕事をされてきて、その論理的思考能力が、法科大学院での勉強に活かされたと感じたことはありますか。 |
佐藤 |
たしかに、要件事実論的な考え方とか、原則・例外を積み重ねて結論を導くという意識は、役に立ったと思います。ただ、研究者というのは、皆が考えていないことを考える仕事で、これは、多数の人が納得する解答を導き出す法律実務家とは逆の仕事ですから、その意味では大変でした。自分が、法律の勉強に向いているとか、得意だと思ったことはありません(笑)。 |
森田 |
たとえば、勉強していると、「これは、自分の研究には、こういったかたちで役に立つな」などと考えていらした訳ですよね。他方で、「司法試験に向けては、どのように勉強を進めていけば良いのか」ということも考えなければなりませんよね。この2つのことを考えながら、勉強していらっしゃったということですか。 |
佐藤 |
いや、筑波大学に入学した動機が司法試験への再挑戦、リベンジでしたので、在学中は、やはり、司法試験に向けての勉強という意識が強かったと思います。ですので、授業が終わった後も自主ゼミなどをして、遅くまで勉強していました。 |
森田 |
筑波大学法科大学院には、既修者として入学されたわけですが、筑波大学での勉強によって実力が向上した、と感じられたところはありますか。 |
佐藤 |
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森田 |
佐藤さんは、在学中に予備試験にも合格されていますが、そこにも、法科大学院での勉強の成果が活かされているのでしょうか。 |
佐藤 |
あの当時は、自主ゼミでの勉強に力を入れていて、答案構成の方法など、大分鍛えられました。その勉強が、ちょうどピークに達したときに予備試験を迎えたので、合格できたという感じです。 |
森田 |
そうすると、同期の学生さんたちと一緒に勉強して、互いに感化された部分が大きかったということですかね。 |
佐藤 |
そうですね。自主ゼミのメンバーは、勉強の進度もだいたい揃っていたので、効率的に勉強ができました。もちろん、先生方のサポートも、非常に役立っています。今日いらっしゃるのは、お世話になった先生ばかりですから、私の実力はよく分かってらっしゃると思いますが(笑)、細かいところまで、非常に熱心にご指導いただき、感謝しています。 |
森田 |
法科大学院を修了した後も含めて、受験対策のための勉強としては、どういったことをしていましたか。 |
佐藤 |
私の場合は、コンピュータを使ってタイピングすることで知識を記憶する、という方式で勉強していましたが、記憶力がどんどん鈍ってきているので、記憶するための時間を確保するのが大変でした。それと、修了してからも、自主ゼミは続けていましたので、そこでの勉強が、ペースメーカーとして役に立っていた部分はあります。 |
田村 |
それは、自分で、コンピュータを使って、ノートみたいなものを作っていたということですか。 |
佐藤 |
そうですね。授業のときにタイプ入力したノートを、まとめ直して、問題形式にして解いて覚えたりしました。また、短答式の勉強としては、過去問を、何度も解いて勉強しました。 |
森田 |
そのようにして、司法試験の合格を勝ち取られたわけですが、今後の活動の予定としては、どのようなことを考えていらっしゃいますか。 |
佐藤 |
研究面では、今は、法科大学院で学んだ要件事実論についての知識を活かして、AIによる法律推論についての研究を進めています。これを、素人でも使えるようなシステムにして、完成させることが目標です。 |
森田 |
そうすると、退職されてから、司法修習に行かれる予定ということですか。 |
佐藤 |
そうですね。現在、「裁判過程における人工知能による高次推論支援」と題した大型のプロジェクトをやっておりまして、今は、研究代表としてこのプロジェクトを進めていかなければなりません。裁判の過程というのは、事実認定から始まって、当て嵌めをして、判決推論をするという流れになりますが、このプロジェクトでは、最後の推論部分だけではなく、事実認定からの全ての過程をコンピュータにサポートさせるための研究を、他分野の先生方と共同して行っています。修習に行けるのは、このプロジェクトが終わってから、ということになると思います。 |
田村 |
佐藤さんの場合は、研究活動で法律知識を活用しようと考えて入学されたことでしたから、修習に行って弁護士になられたとしても、どちらかというと、研究活動をメインに考えているということでしょうか。 |
佐藤 |
今のところ、そこまでは考えていないというのが正直なところです。 |
田村 |
むしろ、開発したシステムを、いろいろな弁護士事務所に使って貰うということを考えていらっしゃいますか。 |
佐藤 |
はい、そうしたいです。ちょっと悔しいのが、弁護士の先生にこの話をしても、「使いたい」と言ってくれる人が、あまり居ないことです。「このぐらいの知識は、俺の頭の中にある」とか言われて(笑)。悔しいので、退職したら弁護士になって、自分でシステムを使って、たくさんの事件を処理して、私のつくったシステムが役に立つことを証明したいと思っています。ただ、刑事の事実認定についてはシステム的に難しいところがあるので、今のシステムを使って弁護士をやるとすれば、民事を専門とすることになると思います。 |
森田 |
では、佐藤さんから、後輩の筑波大学法科大学院生に、メッセージをお願いいたします。 |
佐藤 |
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田村 |
最後に、筑波大学法科大学院に期待することは、何かございますでしょうか。 |
佐藤 |
「実務家的な感覚」の授業が大変役に立ったので、これをもっと充実していって欲しいと思います。私の場合は、自主ゼミで鍛えられたことで、合格に繋がったと考えていますが、それと比べれば、普段の授業での課題などは、それほど負担とは感じませんでした。授業でも、学生をもっと鍛えていただければと思います。 |
森田 |
むしろ、例えば、「AIと法」の講師として来ていただいて、筑波大学法科大学院の教育活動に参加していただくというのは如何ですか。学生にとっても、非常に興味深い内容なのではないかと思いますが。 |
佐藤 |
そういう機会があったら、是非お願いしたいです。 |
森田 |
本日は、どうも有り難うございました。 |